11月30日「浦和記念」。ヴァーミリアンが1頭別次元の強さをみせた。好スタートをすぐ折り合って3番手。1周目スタンド前、掛かったヨシノイチバンボシが先頭をうかがうなど一種不穏な流れにもみえたが、同馬自身は終始スムーズ。何とも気性面で落ち着いている。4コーナー、手前を変え切ったところで、鞍上が右ステッキ一発。あっという間に抜け出し、あと100mの地点ではすでに手綱を押さえていた。ひとこと完勝。2000m・2分06秒8はとりたてて速くもないが、晴天続きでパサついた馬場。何より数字を超えた瞬発力と競馬センス、大物といっていいと思う。
浦和記念(サラ3歳上 別定 交流GII 2000m 良)
◎(1)ヴァーミリアン (54・武豊) 2分06秒8
△(2)ハードクリスタル (56・横山典) 3
△(3)ノボトゥルー (58・ペリエ) 2.1/2
▲(4)ウツミジョーダン (56・石崎隆) 1.1/2
△(5)コアレスハンター (56・御神本) 3
…………………
○(6)メイプルエイト (54・張田)
△(7)マクロプロトン (56・内田博)
単160円 馬複250円 馬単360円
3連複990円 3連単2,300円
ヴァーミリアンは、今秋ダート路線に転向して2戦2勝。前走エニフS、ドンクール、カイトヒルウインド、ウインデュエルらを完封だから、今日の1番人気もうなずける。とはいえ期待を超えた勝ちっぷり。「左回りと地方の馬場。少し不安もあったけど、結果的には杞憂でした」(武豊騎手)。サカラート(父アフリート)の半弟という3歳馬。父エルコンドルパサーを加味すれば、さらに奥行きが想像できる。カネヒキリ世代、JRA・No.2は同馬かもしれない。次走は「東京大賞典」「名古屋グランプリ」を両睨み。仮に前者GIでも、十分脈ありとイメージする。
南関東No.2メイプルエイトはダービーGP取り消し後。馬体のハリ、気合などパドックから正直冴えず、いざレースも、ペースが上がった向正面であっけなく脱落した。ひと叩きで一変は現時点で厳しくみえる。元来タフな馬だが、結果的に使い出しが早すぎたか。これが能力通り走れないと地方勢は望みが薄い。思い切りよくハナを切ったハードクリスタルが2着に粘り、古豪ノボトゥルーが最後しっかり伸びて3着を確保した。JRAのワンツースリー。それでも中で、ウツミジョーダンは良化の期待があるだろう。3〜4コーナー外々を追い上げた脚はみどころ十分。全国レベルにもうひと息の力関係。少し相手が軽くなれば(次走、川崎・オールスターCを予定)一躍主役級に抜擢できる。
今週の大井開催(12月5〜9日)は、重賞が組まれていない。ボーナス時季を考えると拍子抜けの番組編成。それはさておき、一つ思い出し、ため息をついてしまった。かつての大井、12月上旬の呼びものは「全日本アラブ大賞典」だったこと。平成7年(菅原勲=ミスターホンマル優勝)が、実質的な最後になるか。とにかくそれは、記者などに1年の締めくくりという思いを抱かせ、サラブレッドの大賞典より、むしろ楽しみだったと記憶する。
思いつくままあげてみよう。ホクトライデン、エビタカラ、トキテンリュウ、キンカイチフジ、ローゼンガバナー、ミスターヨシゼン…。まさしく群雄割拠の戦国絵巻で、地方競馬のエッセンスが、ここに凝縮されていた。北海道が勝ち、岩手が勝ち、東海が勝つ。メッカの園田、福山、むろん南関東も負けてはいない。各地から集結した“オラが名馬”が火花を散らす。何よりその対抗ムード、ガチンコ勝負がスタンドを熱くさせた。怪物の肖像、インパクト。そんな話をするなら、サラブレッドより、彼らアラブの方が、強烈な存在感を放っていた。
ノスタルジーとお断りしてもう少し書く。アラブの終焉―。タフで頑健、そして従順。かつて地方競馬の主役でもあった彼らが、なぜ舞台から降ろされたか。アラブはスピードで劣っている、レースが緊迫感に欠けている、そんな話ではたぶんない。1F・12秒で走る競馬を、スピード感のあるなし、瞬間的に識別するほど、人間の眼は精密なはずもないから。今風でない泥臭いイメージ。アラブを追いやったのは、ある意味偏見であり、差別ともいえる。そして根本的に不幸だったのは、彼らがどう頑張ろうと、行く末に“国際性”がみえないこと。ジャパンC創設、競馬の世界地図が明らかになる中、アラブはみるみる“大義”を失っていく。形勢が変われば生産界の推移も大きい。生産頭数自体の減少で“怪物”の出現度も低くなった。
結局は時代の流れということか。長い歴史を持つ名物レース。大井=TCK主催者にとっても「アラブ大賞典廃止」は苦渋の決断と推測できる。ただ、地方競馬らしいレースを自ら失くした、放棄してしまった、外野からみるとそこを納得できない気分もある。例えばファンにアンケートという手もあった。「アラブ存続が難しい中、それでもあなたは彼らの“大賞典”を支持しますか…」。個人的には7:3くらいでアラブ勝利をイメージする。弱者(アラブ)が、強者(サラブレッド)を打ち負かす。地方競馬とは、長くそれがハイライトの1つではなかったか。彼らの劇走、逆転は、いつも観戦者を元気にさせた。
仲間うちなら誰もがうなずく“タラレバ”がある。平成6年、サクラハイスピードが勝った「東京盃」は、五分のスタートならトチノミネフジ(しかも59kgを背負った)がねじ伏せていたということ。全盛期のコスモノーブルなら、中京「ウインターS」など軽く差し切っていたということ。時計うんぬんとか理屈で迫られると言葉に困るが、イメージとしては確信がある。
かつて石崎隆之騎手に聞いた。 自分の乗った最強馬。少し考えてからポツンと言った。「コスモノーブル、あれは強いよ」。同馬は平成3〜4年、アラブ大賞典連覇の偉業を遂げ、さらに4〜5年は、サラブレッド相手に「報知グランプリカップ」も連覇している。そんなアラブがいたということ。追記すれば、その父タイムラインは昭和47年、大賞典ウィナー(当時レコード・佐々木竹見騎手騎乗)。知る人ぞ知る、古の名馬である。