我妻登鷹さんの愛馬、ポニーのエピ(提供:我妻登鷹さん)
“僕とエピは絆で結ばれている”
我妻登鷹さんにとって、ポニーのエピとクロエ、そして元競走馬のエースティターンは家族同然の存在だ。
「その中でもエピを溺愛していますね。怖いくらい(笑)。生後2か月からずっと見ているので、様々な思いがあります」
スーツの裏地に刺繍を入れてしまうほどの溺愛っぷり!(提供:我妻登鷹さん)
エピは1月19日で満6歳を迎えたが、飼い始めた当初は愛馬との関係がうまくいかないこともあった。
「半年くらいたった頃、エピに我が出てきてしまい僕に歯向かうことを覚えたんです。牧場でお散歩をしていたのですけど、途中で止まったりして動かなくなってしまうんですよね。僕が素人過ぎたこともあり、ポニーなんて曳けば来るだろうくらいに気軽に考えていたのですが、それがそうはいかなくなってしまったのです。馬に対するリスペクトもなかったですし、馬についての知識もなかったですしね」
そこで我妻さんは、茨城県の牧場にいる知り合いに週に1回、調教を依頼した。
「毎週火曜日に僕と時間を合わせてその方に千葉県まで来てもらって、裏堀りや曳き馬など、1年間付きっきりで矯正をお願いしました」
1年間調教を重ねたのちも、我妻さんは真剣に馬と向き合った。そしてエピと出会ってから6年の月日が流れた。
「しっかり真剣に向き合うと、エピも段々心を開いてくれて、僕が牧場に行って呼ぶと走って寄ってきてくれるようになりました。牧場のスタッフの方がたまに馬の様子を見に来たり、僕に話しかけたりするときに、その人たちの脚をカプッと噛むことがあるんですけど、僕には絶対にそういうことはしないです。ちゃんと人を見ているなと感じますし、僕が勝手に思っているだけかもしれないですけど、僕とエピは絆で結ばれているなと…。馬の行動を見ていてそれは感じますね」
6歳の誕生日を迎えたエピ(提供:我妻登鷹さん)
削蹄にもこだわっている。
「ポニーだと削蹄もいい加減になるケースもあると思うのですが、僕はそれが嫌なので、月に1回は装蹄師さんに来てもらって削蹄をしてもらっています」
馬と真剣に向き合う。馬と関わるにあたってこれはとても重要なポイントだ。我妻さんの場合はポニーだが、これはサラブレッドなど他の種類の馬でも同じことが言える。馬を実際に引き取った人はもちろんだが、引退馬支援をする場合でも、馬の飼養管理や馬の習性を学び、自分なりの方法で馬と真剣に向き合う人が増えていけば、馬自体のQOL(クオリティ・オブ・ライフの略で生活の質のこと)が向上すると思うからだ。
我妻さんが引き取ったサラブレッド、エースティターンの競走馬時代のオーナー・渋谷陽さんは、ミニチュアホースを飼養している。
「渋谷さんは早朝から時間をかけて馬房掃除やブラッシングをされています。ただ可愛がるだけではなく、渋谷さんのように面倒くさいと思われがちなところを徹底してやることによって、馬にもそれが伝わって信頼につながるのかなというのもありますよね。僕も週2回しかできないですけど、牧場に行けばボロを拾うなど馬房掃除をして、エピたちの手入れをしています」
馬房掃除は馬房をきれいにするというだけではない。ボロの状態や、尿の量など、その馬の健康状態を知る手がかりを得ることができる。馬房掃除にはそのような重要な役割もあるのだ。
また我妻さんの妻である菜緒美さんも、夫の影響ですっかり馬好きとなってしまった。
菜緒美さんとエピ(提供:我妻登鷹さん)
「妻は妊娠中なのですが、つわりが酷くて4か月ほど一緒に牧場に行けなかったのですよね。現在は妊娠7か月で、安定期に入ってからまた牧場に行くようになったのですが、お腹に赤ちゃんがいるから、大人しくしているんだよとエピに伝えました。すると妻が曳き馬をするとエピはとてもゆっくり歩くんです。僕の時はもう少し速く歩くのに、妻の時は本当にゆっくりゆっくり歩いてくれます。それが1回ではなく、妻が曳くたびにそうなので、ちゃんと馬にも通じるのだなと実感しましたし、そう思いながら接するようになりました」
新型コロナウイルスの感染拡大で、明るい話題が少ないご時世ではあるが、我妻さんにとってプラスだったのはテレワークを牧場でできることだった。
「放牧地でテレワークができますので、それは良かったです。良い意味で馬との時間も増えましたからね。満員電車のストレスを感じずに自分の好きな場所で仕事ができるというのは、メンタル面にも良いと思います。コロナ禍で大変ですけど、馬のいる牧場で仕事をするのが僕は好きですね」
ここでエピたちとテレワークをしているそう(提供:我妻登鷹さん)
テレワークが可能な仕事であれば、我妻さんのようにそれぞれが好きな場所で働けるようになる可能性が出てきた。これも新型コロナウイルスがもたらしたものの1つなのだろうし、今後働き方はどんどん変わっていくようにも思う。我妻さんの場合は馬だが、大好きなペットのそばで働くという人も増えていくかもしれない。
そんなコロナ禍の中、馬事学院に預託しているエースティターンは乗用馬として日々成長をし、競技会に出場して優勝するまでになっていた。我妻さんも時間があれば、応援に駆け付けて声援を送っていた。
(つづく)
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