3月1日、大井「東京シティ盃」。ベルモントファラオが会心の逃げ切りで重賞初制覇を飾った。内外に同型ズラリ。しかし1番枠コウエイソフィアにダッシュがつかず、好発を決めたベルモントストーム、ロッキーアピールにもあえて行こうという構えがない。1000m通過60秒3、短距離らしからぬ平均ペース、ほぼ持ったままだから余力がある。直線追いすがるイブキオネストを危なげなく振り切った。「向正面ですぐ息が入りました。力を出せる展開に持っていけたし、これで負ければ力関係。無欲で乗れたのがよかったです」(御神本J)。同騎手は南関東移籍以来3年4か月、念願の重賞勝ち。益田時代、天才の名をほしいままにした彼だが(当地重賞8勝)、大きな落馬事故に見舞われるなど、ここまでどうにも運がなかった。「まだ実感がわきません。帰ってからじわっとくるかもしれませんが…」。相変わらずのイケメン、ファニーフェイスながら、インタビューの表情、口調は、心なしか大人っぽくみえた。
東京シティ盃(サラ4歳上 別定 南関東G3 1400m 不良)
△(1)ベルモントファラオ (56・御神本) 1分25秒0
△(2)イブキオネスト (56・内田博) 3/4
(3)クールアイバー (58・森下) 2.1/2
(4)ウエノマルクン (58・柏木) 1
(5)コアレスタイム (56・佐藤隆) クビ
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○(6)メイプルエイト (58・左海)
△(9)ロッキーアピール (58・今野)
◎(10)ベルモントストーム (58・石崎駿)
▲(15)インターセフォー (56・石崎隆)
単2,030円 馬複5,290円 馬単14,340円
3連複500,180円 3連単2,592,690円
ベルモントファラオはJRA3勝、1000万からトレード。以後短距離中心に使われ10戦6勝、およそ1年でA級へ昇りつめた。抜けたダッシュ力というより、二の脚、三の脚がセールスポイント。昨夏1200m1分11秒1からは勝たれて当然ともいえるが(東京盃GII=アグネスジェダイ11秒2)、前走狙ったはずの船橋記念1000mで1番人気6着、大きく評価を落としていた。中1ヶ月の調整、心身とも馬を変えたというしかない。父アジュディケーティング。高橋三郎厩舎で再生の経緯は、ハタノアドニスとよく似ている。「乗り役さんが上手だったし、道悪も味方した。ただ体がもっとふっくらしてこないとね…(13kg減)」。馬中心主義を前提に、あくなき探求、あくなきチャレンジ。同厩舎スタッフの情熱はいつもながら凄いと思う。
イブキオネストが中身の濃い競馬をした。致命的な出遅れを巧みなコース取りで徐々に挽回。直線あと1F・2番手に上がり、最後の最後までしぶとく伸びた。「この馬は走りますよ。今日は(他が速くて)難しい状況になったけど、展開や位置取りは関係ない、そういうレースをしてくれた」(内田博J)。同馬はJRA未勝利、しかし転じた大井、下級条件から10勝をあげてここまで昇った。実績やら年齢やらを、潜在能力、適性が、こともなく超えていく。エリシオ×ブレイヴェストローマン。力の血統がダート短距離で開花は近年珍しくもなく、むしろトレンド。ベルモントファラオ、イブキオネスト、両馬とも次走「マイルグランプリ=大井4月12日」と明言された。
人気馬総崩れ。どう書いたらいいか言葉に迷う。どれも負け方が悪すぎた。もっともメイプルエイトの場合は、右回り大井にこだわり帝王賞からローテ逆算、短距離をあえて使ったとすればエクスキューズがつくかもしれない。当日のパドックなど、記者の目には馬体、気合とも迫力満点、少なくとも体調に起因する負けではないだろう。次走ダイオライト記念を使うのかどうか。私見では、同馬は小回りの長距離、例えば「佐賀記念」「名古屋大賞典」あたりが最適とイメージする。ベルモントストームは、好発、理想的な位置取りで、それこそ敗因がわからない。「こんなものなのかなぁ…。今日はちょっとガッカリしました」(石崎駿J)。オールスターカップ、金盃と2000mを力走、その反動があるいは出たか。しかしそうだとしたら、以前のひ弱なストームに戻ってしまったわけで、今後も大きな期待はかけづらくなる。インターセフォーは待機策が失敗。それにしてもここまで動かない同馬は初めて見た。ロッキーアピール、ブラウンシャトレーは久々が大きいが、次に期待を抱かせる内容では正直なかった。距離不適と思えたクールアイバー3着、ウエノマルクン4着が、レース自体の低調さをおそらく示す。
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1月1日〜3月3日、南関東短期限定で騎乗していた内田利雄騎手が、ひとまず今回のピリオドを打った。4競馬場、皆勤で乗り[16-14-15-110]。とりたてて騎乗馬に恵まれた(質の面で)わけでもなく、実績通り、風評通りの立派な数字か。しかしそれより何より、どんな馬でも見せ場を作ろうという、ファイティングスピリットに、強烈なプロ意識を感じた。たとえ近況さっぱりの人気薄に跨っても、何かをやってくれそうな「ミスター・ピンク」。日を追うにつれ存在感が大きくなり、ファンの期待はもちろん、オーナー、調教師にも「彼を乗せたい…」、そういうムードが高まっていた。そこで“2ヶ月限定”は、欲求不満としか言葉がない。
最も印象的なレースを一つ書く。2月13日、船橋競馬最終12R。14頭立て12番人気ダイワスマイルで豪快な大外一気。同馬は3歳春からおよそ2年間、勝ち星はおろか掲示板もおぼつかず、記者などの予想上、いわゆる“安全牌”とみえていた。JRA出身のキャリアなどいくつか大駆けの要素はあったのだろう。それでも、馬に生命力、活力を吹き込んだのは、内田利雄、その人でしかたぶんない。1番人気馬との馬複が17310円。「内田さーん、ありがとう!」。スタンドから大きな歓声が飛び、ウイニングランの彼は爽やかな笑みとともに手を上げた。好漢である。おそらく誰もがファンになる。
「2500勝以上、4場所年度1名ずつ、2ヶ月以内」が、今回ルールということらしい。しかしそれはあくまで南関東のお手盛りであり、不安定かつ不透明な決め事でしかないだろう。なぜ1名ずつか、なぜ2ヶ月以内か。2500勝以上という数字も、ごく常識的にみてハードルが高すぎる。抜本的、建設的には、JRAを含む騎手免許の一本化――理想に近づいていこうという意思が、ここにはあまりみえてこない。
内田利雄騎手は、ある意味、内田博幸騎手以上の“風雲児”とも考えられる。ステッキ一本の全国行脚。腕を磨き、アピールし、同時に矛盾した日本の騎手制度に風穴をあけよう、それほどの道を歩んでいるから。44歳。気負わず衒(てら)わず、パドックで、馬上で、あの飄々とした笑顔はどこから出るのか。ちなみに内田利雄騎手、次の南関東騎乗は、今秋11月20日〜翌1月19日、今回と同じく浦和・村田貴広厩舎所属の形で再開されることになっている。
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しらさぎ賞(浦和3月8日 サラ3歳 別定 南関東G3 1600m)
◎ユウユウシーザー (54・佐藤隆)
○ヤマイチロマン (54・内田博)
▲サワライチバン (54・石崎駿)
△ゲームメーカー (54・的場文)
△オウシュウクラウン (55・山田信)
△ロイヤルアプローズ (54・山林堂)
△シップアルーフ (52・石崎隆)
プラチナティアラ (53・左海)
キングトルネード、コーラスマスター、さらにアヤパンと回避して混戦ムード。本命ユウユウシーザーは、前々走ニューイヤーC(浦和1600m)をコーラスマスターの1馬身差2着。当時致命的な出遅れを直線一気に挽回した。父ネーハイシーザー、520kg台の大型馬で、エンジンかかっていい脚を長く使う。ここは牝馬プラチナティアラの逃げを、ヤマイチロマン、オウシュウクラウン、人気どころがまくる展開。上がりのかかるレースなら大勢逆転が十分浮かぶ。
ヤマイチロマンは道営→南関通算[4-1-2-0]。内田博Jなら1番人気も当然だが、前走1600mを4コーナーまくったものの意外な失速(3着)。パドックなど相当テンションが高くみえ、道中の折り合いに課題を残す。そのレースを中団から差し切り新境地をみせたサワライチバン、同様に瞬発力のあるゲームメーカーまで互角の評価。岩手から転入、初戦船橋をあっさり勝ったオウシュウクラウンも、ダーレー軍団の一角で父ジェイドロバリーだから素質は高い。初コースをどうこなすかがテーマになる。