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究極の勝負師

  • 2006年03月13日(月) 23時49分
 3月7日、浦和競馬2日目。的場文男騎手が、地方競馬通算5000勝(他にJRA4勝)を達成した。第5レース、3番人気のオールオアラヴ。少し詰めの甘い馬を、3コーナー思い切りよく仕掛けて先頭。いかにも同騎手らしい攻撃的な競馬とみえた。佐々木竹見騎手7151勝、石崎隆之騎手5675勝に続く大記録。年齢(49歳)を乗り超え、落馬事故などケガを乗り超え、月並みながら「鉄人」という言葉が最も似合う。

 「(地元の)大井で区切りをつけたかったけど、勝負ごとは厳しいから。今はホッとした気持ち」、「次の数字(6000勝)は年を考えると難しいかな。でも体が続く限り、周りの期待に応えていきたい」、「(継続の秘訣は)体調万全で臨むこと。寒い時期はランニングで体を温めたりしてね。その管理とケアは、自分でもよくできていると思う」。

 06年3月10日現在、44勝で南関東リーディング第2位。内田博幸時代の背景に数字こそ水があいたが(内田J81勝)、こと日々の騎乗ぶり、インパクトというなら、けっして負けている印象はない。内ラチ沿いから強烈な差しを決めた「船橋記念」。3〜4コーナーから一気にまくった「エンプレス杯」。コアレスタイム、ローレルアンジュ、力関係からは厳しいかとみえた人気薄を、見事重賞ウィナーへ仕立て上げた。

 ふっ切れた…などと書いてはもちろん失礼。しかし代わりに「円熟」という言葉がある。今の的場騎手はまさしくそれか。実績によって培われた周囲の信頼。経験によって磨かれた抜群の勝負勘。仮にテン乗りでも、調教師サイドからおそらく“指示”など出ないのだろう。思うまま、自在に乗れるポジションを、30余年の騎手生活で確実に獲得した。そしておおむね馬の能力(評価)以上の結果を出す。そのことが何とも凄い。

 もう20年あまりも前になる。彼が初の大井リーディングに輝いたころ、弊紙(日刊競馬)の新春特集で詳しく取材させていただいた。日の出の勢いという若きスター。しかし本人はまだまだ不満な表情だった。「サブローさん(現高橋三郎調教師)には全然追いついていないです。(自分の)ミサキネバアーが仕掛けを迷っているうち、サブちゃん(トラストホーク)が一気に行った。あの2着(ハナ差)は、どう考えても腕の差でしょう…」。当時の東京大賞典。ミサキネバアーは東京王冠賞、東京記念などを制した一流馬(後にJRA移籍、天皇賞・春2着)である。深刻な自己反省。逆にいえば、その悔いが自身トップJに昇る突破口になった、今ふり返るとそう思う。

 勝負どころでためらわない、逡巡しない、感性のままに動くこと。的場文男騎手、その魅力、エッセンスとなればやはりそこに落ち着くだろう。一気に逃げるか、一気にまくるか。たとえ人気薄でも勝ちにこだわった競馬をさせる。彼の本音を推測する。自分を頼んだ以上、すべての馬が脈ありで、仕上げも完璧にできているはず――。揺るぎない信念、そして自信。何度か書いたことを繰り返す。石崎隆之を“静”とすると、的場文男は“動”である。ボクシングでいうボクサーとファイター、ハイレベルの攻防が長く続いた。舞台の袖で見守ってきた内田博幸騎手。いつか俺もあんな風に…。今の彼の全盛は、その歴史が創りあげたものともいえる。

       ☆       ☆       ☆

しらさぎ賞(3月8日浦和 サラ3歳 別定 南関東G3 1600m 良)

▲(1)サワライチバン   (54・石崎駿) 1分42秒5
◎(2)ユウユウシーザー  (54・佐藤隆) 1.1/2
△(3)ゲームメーカー   (54・的場文) 2
△(4)ロイヤルアプローズ (54・山林信) 3
△(5)オウシュウクラウン (55・山田信)  1.1/2
 …………………
 (6)プラチナティアラ  (53・左海)
○  ヤマイチロマン   (54・内田博) 競走中止

単570円 馬複2,630円 馬単4,960円
3連複9,050円 3連単41,350円

 サワライチバンの完勝だった。好スタートからすんなり2番手。逃げたプラチナティアラが休み明けの牝馬だから、道中終始余裕がある。4コーナー持ったまま先頭。直線ほんの一鞭で後続を完封した。瞬発力と器用さが大きな特徴。一線級回避でイメージとすると低調だが、現実に1600m・1分42秒5は馬場差を含め合格点がつく(翌日A3下43秒2)。主役不在、今年のクラシックレベルなら伏兵以上の評価も可能か。ロングニュートリノ×フェアジャッジメントの血統はいかにも地味。ただこういうタイプは意外な成長力を往々にしてみせたりする。次走「京浜盃=3月21日大井」。右眼がよくない(昨秋レース中負傷)とのことで、改めて試金石になりそうだ。

 1番人気ヤマイチロマンが、向正面で競走を中止した(屈腱断裂・予後不良)。何とも残念だが、パドックから返し馬、いつもの元気(イレれ込むほど)が感じられず、結果的に蓄積疲労があっただろうか。◎ユウユウシーザーはいつになく互角のスタート。うまく流れに乗り、期待通りいい脚を長く使った。それでも4コーナー勝ち馬に並びかけあっさり突き放されたのだから、現時点では力負けだ。ゲームメーカー、ロイヤルアプローズは、先行馬ペースの中、展開が向かなかった。オウシュウクラウンはスタート出負けで待機策。いわゆる小脚のきかないタイプとイメージでき、むしろ大井外コースで面白い馬とチェックしておく。

       ☆       ☆       ☆

ダイオライト記念(3月15日船橋 サラ4歳上 定量 交流GII 2400m)

◎ヴァーミリアン    (55・内田博)
○タイムパラドックス  (56・武豊)
▲パーソナルラッシュ  (56・藤田)
△ルースリンド     (56・佐藤隆)
△アルファフォーレス  (56・岩田)

 ヴァーミリアンは、今季交流Gの主役を張って不思議ない。昨秋からダート転向。エニフS(オープン特別)、浦和記念と連勝し、明けて平安S・2着、フェブラリーS・5着、中身の濃い競馬を続けている。父エルコンドルパサー。半兄サカラート(アフリート)より、馬体、気性とも骨太で、とにかくレースぶりが逞しい。平均ペースを自らまくる形が理想になるか。こと中〜長距離なら、今後カネヒキリの強力なライバルともイメージできる。武豊Jが差し合い、しかし陣営は迷うことなく内田博幸を確保した。ここを確実に勝っておけば、帝王賞の出走権など、視界もすっきり広がってくる。

 タイムパラドックスは昨年2着。早めに動いたパーソナルラッシュの前に2馬身差をつけられた。ただ今回そのパーソナルが休み明け。地力と格、さらに貫禄、やはり対抗以下には落とせない。パーソナルラッシュの評価は難しいが、完全燃焼を想定すれば一気の逃げか。ヴァーミリアンに直後でマークされては苦しくなる。南関ただ一騎ルースリンドも成長株だが、交流Gは初挑戦で、まだ胸を借りる立場だろう。アルファフォーレスもオープン入りしたばかり。岩田騎手、どう乗るかがここでの見どころ。

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日刊競馬地方版デスク、スカイパーフェクТV解説者、「ハロン」などで活躍。 恥を恐れぬ勇気、偶然を愛する心…を予想のモットーにする。

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