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「横山武史騎手」の新人時代は――師匠・鈴木伸尋師の証言「本当にコツコツ努力を」

  • 2022年03月01日(火) 18時02分
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▲横山武史騎手と師匠の鈴木伸尋調教師 (C)netkeiba.com


今年も初々しい新人騎手たちが、デビューの日を迎えようとしています。

近年目立つのが、若手騎手たちの活躍ぶり。競馬界の新たな活気となっています。そこで、いま特に輝いている横山武史騎手と松山弘平騎手の師匠に、「新人の頃はどんな騎手だったのか」「どうやってトップへの階段を駆け上がっていったのか」をお聞きします。

最初に登場するのは武史騎手の師匠、鈴木伸尋調教師。デビュー5年目の昨年、大ブレイクを果たした武史騎手。皐月賞でGI初制覇を果たすと、菊花賞、天皇賞・秋、有馬記念、ホープフルSを次々と勝利。なぜ武史騎手は、これほどの活躍を見せているのか? 師匠の言葉から探っていきます。

(取材・構成=佐々木祥恵)

明るい一方、繊細で思慮深い性格


――鈴木先生と横山武史騎手が初めて会ったのはいつだったのでしょうか?

鈴木 競馬学校の2年生の時だから、武史が16歳の時ですね。今23歳だから、7年前になります。

――最初の印象は?

鈴木 小さい(笑)。当時は体重が38キロくらいで、本当に小さくてアニメの一休さんみたいでした。

――当時と比べると随分体も成長しましたね。

鈴木 現在は54キロほどありますので、15、6キロは体重が増えていますし、身長も随分伸びました。

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▲騎手免許試験合格の記者会見 (撮影:佐々木祥恵)


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▲同期の木幡育騎手、武藤騎手と共に飛躍を誓った (撮影:佐々木祥恵)


――厩舎実習の頃はどんな感じでしたか?

鈴木 特に乗り方が上手だったとか、技術が他の子よりも抜きん出ているわけではなかったのですが、武史が乗ると馬が動くんです。例えば5ハロンから追い切りをした時に、向こう正面で行きたがる馬を必死で抑えているんですよね。

 普通あれだけ引っ掛かったら、最後の1ハロンはバタバタになることがほとんどなのですが、武史が乗ると最後まで馬が動いていました。

――体重が軽いというだけではない何かがあるのでしょうか?

鈴木 その時はなぜかなと思っていましたけど、自分なりの解釈では、引っ掛かっていても馬がエネルギーを消費していない。掛かっているように見えて、馬は気持ち良く走っている。人間は必死に抑えているんだけど、馬のエネルギーは枯渇しないから終いも伸びてくる。自分なりにそう解釈しています。

――つまり馬に負担のない乗り方ができていたということですか?

鈴木 そうなのでしょうね。引っ張って抑えているんだけど、うまく馬の上にバランス良く乗っていて、馬の邪魔をしていないから馬も気分良く走っているのではないかなと。馬が心身ともに無駄な動きをしていないので、エネルギーが最後まで残っているのだと思いますね。

――それは天性のものなのでしょうかね?

鈴木 そう思いますよ。教えてできるものではないでしょうから。今では乗るフォームも格好が良くなっていますし、抑え方もうまくなっているので、馬もしっかり伸びてくるようになっています。

――どのような性格なのでしょうか?

鈴木 明るいですけど、繊細で思慮深いですね。父の横山典弘騎手とも似ていると思います。

――そのあたりを踏まえてどのように教育をされてきたのでしょうか?

鈴木 とにかく自分で考えて自分で結論を出させることですね。こちらからこうしなさいとは言わないです。例えばローカルに行くにしても、どこの競馬場で乗るのかというのをまず自分で考えて結論を出させるということにすごくこだわってきました。

 誰かに言われたからそうするというのではなく、どこの厩舎を手伝うのか、どこの競馬場に行くのかを、自分で全て考えて答えを出してから相談しに来るようにと言っています。

――先生は武史騎手の出した答えを尊重する形ですか?

鈴木 彼の出した結論は尊重してきましたが、そうしない方がいいのではないかと思った時にはその理由を説明して、最終的には本人に決めさせます。そのかわり決めたことには自分で責任を取るようにと伝えています。

――そして年々、成績も伸びてきましたね。

鈴木 デビューした年は13勝でしたけど、その中で中京に行こうか、北海道にしようかとか、自分で考えて実践していました。だから僕は何もしていないですよ(笑)。

 全部自分で考えてこうしたいと僕と相談して結論を出した結果、成績が伸びてきましたから、やはりいろいろなことを考えてやっているのだろうなと思います。

武史騎手の目標は“数字”ではない


――デビューした時は、どんな気持ちで送り出したか覚えていらっしゃいますか?

鈴木 ハラハラしました。まず怪我のないこと、他の人の邪魔をしないこと、レースを壊さないこと。それしかなかったですね。勝つとか負けるとか、最初は全く考えていませんでした。それは皆一緒ではないかなと思いますね。

 今は武史も数を乗っていますし、もうハラハラドキドキすることはなくなりましたけど、怪我だけはしないでほしいというのはありますね。そこが1番です。

――騎手として着実に実績を積み重ねていますが、大きく成長する転機はあったのでしょうか?

鈴木 転機というより、コツコツ努力しているなと思います。その中で運良く良い馬に巡り会えて、結果も出しているので、短期間の間に関東リーディングを取ったと思うのですけど、見ていると本当にコツコツ努力しています。

――例えばどんな努力を?

鈴木 利き手と違う左手でご飯を食べたり、野球やボウリングをしたり、そういうことを日々の生活の中でやっています。左手で箸を持つのは右手と変わらないくらいできています。これは競馬学校生の頃にある方にアドバイスされてから今に至るまでずっと実践していることです。

 これは1つの例ですけど、そういう努力を積み重ねてきた結果だと思いますね。

――左手を使うと左右のバランスも整いそうですよね。

鈴木 それもありますし、左手を使うことで右脳が刺激されるなど脳にも影響もありますし、すべての脳が使えるようになるとレースでの判断力にも繋がると思います。

――やはりそのようにコツコツと努力するというのが、武史騎手の強みなのでしょうか?

鈴木 そうですね。あとは最終的に目指すものが、自分の競馬における理想の乗り方、レースの運び方といったところにあるんです。100勝したい、200勝したいという数字に目標があるわけではないんですよね。

 それは若い時からそうで、自分はこう乗りたい、こんなジョッキーになりたいという理想があるから、それに向かって努力している。100勝してすごいねと周りから賞賛されても、武史の中で自分の理想とするジョッキー像に近くなければ自身で納得はしないのだと思います。ジョッキーになる前から、そういう話はしていました。

――ちなみにどのようなジョッキー像が理想なのでしょう?

鈴木 それも変わってきていると思うんですよ。結果が出なければ修正してみようなどいろいろ試行錯誤をして、以前の理想像はこうだったのだけど、もしかして違うのではないかと、理想像は日々変わってきているのではないかと思います。

――それを実際感じたことはありますか?

鈴木 クリーンドリームという馬が1勝クラスを勝ち上がったのですけど、その時に「120%馬の能力を出せて勝つことができた」ととても喜んでいました。この馬にはいつも調教にも乗って癖もわかっていますし、レースでも騎乗していたので、彼の考えた馬の能力を引き出せる乗り方を実践したら、勝つことができたのでしょう。

 その馬の持てる能力を120%引き出して勝つというのが、彼の理想の競馬なのだと思います。そのように追い求めている自分のジョッキー像がありますし、彼の場合天狗にはならないのではないかとも思っています。

――その理想のジョッキー像には、なかなか到達しないのでしょうしね。

鈴木 到達しないですし、理想は変化していくのかもしれないですから。それを試行錯誤しながらやっていくのが、楽しいのでしょう。

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▲▼コツコツと努力したことが実り…昨年の有馬記念を勝利 (撮影:下野雄規)


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来年デビュー予定の妹弟子の存在


――これまでで師匠として及第点を与えたところはありますか?

鈴木 来年デビュー予定の小林美駒という妹弟子がいて、昨年の9月からウチの厩舎で実習しています。

 武史は元々が親分肌で面倒見が良いのですが、妹弟子の面倒も本当に良くみています。騎乗技術、馬のこと、競馬のこと、ジョッキーのことなど、いろいろと教えてくれていますよ。面倒をみてあげてとは言ったけど、僕が期待している以上によくやっていて、人間としてものすごく成長していると感じます。

 だから小林美駒も競馬場に行くのをとても楽しみにしていますし、競馬のあとに武史とレースの話をしたり、武史が勝つとすごく喜んでいたりと、とても良い関係ができていますね。

――では最後に今年デビューする新人騎手たち、トップ騎手を目指す若手ジョッキーにメッセージをお願いします。

鈴木 オーナーや厩舎スタッフ、先輩などそういう人々の力を借りないと、自分1人ではやってはいけない仕事ですから、周りの人ともよくコミュニケーションを取って、そして怪我のないように頑張ってほしいですね。

(文中敬称略、次回は3/9に松山騎手の師匠が登場)

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