▲北橋厩舎カラーの花束と福永祐一師(撮影:桂伸也)
2023年3月4日の阪神競馬場、福永祐一騎手の引退式が華やかに執り行われました。縁の深い馬主の皆様や、川田騎手、和田騎手、武豊騎手からの花束贈呈に涙し、両親に27年間の思いを直接伝え──“3月4日”は、忘れられない一日となりました。
その引退式を終え、身も心も“調教師”として、新たなスタートを切りました。現在はドバイに滞在し、シャフリヤール(藤原厩舎)などの調教を担当。来春の開業に向けて、いま考える「目指す調教師像」や「競走馬持論」をお聞きしました。
(取材・構成=不破由妃子)
多くの競走馬を見てきたアドバンテージを活かし
引退を発表して以降、たくさんの取材を受けるなかで、当然ながら「理想とする厩舎像」「目指す調教師像」を聞かれ、自分の考えを言葉にする機会が多くあった。
とはいえ、引退式後も忙しくて、まだ牧場にも一度も行けていない状況で、調教師としてはスタートすらしていない。だから、自分がここ最近、発信していることは、完全なる机上の空論。ジョッキーとして得た経験則を、調教師として自分が管理する馬に落とし込んで行った結果、どういう成果を挙げられるのか。すべてがやってみなければわからない未知の領域だ。
ただ、多くのトップトレーナーと仕事をさせてもらってきたこと、多くのGI馬の背中を知り、馬によっては、そこに至るまでの過程を共有できたことは大きな財産で、アドバンテージだと思っている。
競走馬は、生まれたときから“絶対能力”は決まっていて、そこにプラスαを上乗せすることは不可能だと自分は考えている。つまり、“絶対能力”が低い馬をどれだけ鍛えたところで、GI馬にはなり得ないし、逆に、持てる能力を50%しか発揮できなくてもGIを勝てる馬もいるのが現実だ。
こう言うと元も子もないような気がするかもしれないが、育成や調教、レース選択やレース内容によって、発揮できる能力のパーセンテージは変えていける。育成に関しては、自分は経験も知識もないので、これから知見を深めていかなければいけないところだが、厩舎に入ってからの調整や競走馬としてのキャリアの積み方については、これだけ多くの競走馬を見てきたぶん、やっていいこととダメなことの基準はある程度持っているつもりだ。