◆橋口厩舎栄光の歴史を作ってきた人物の一人、蒔田厩務員に任された「いい馬」
この世界では馬の担当者が替わるのはよくあること。放牧に出されていた担当馬が帰ってきて、その代わりに今やっている馬を手放すといった入れ替えの都合がどうしても起きるからだ。さすがにGI馬の担当者が交代することはめったにないが、GIを取るまでの過程で替わることは案外あったりする。
今年の日本ダービー馬ワンアンドオンリーの現担当者は、かつて野元厩舎で宝塚記念優勝馬エイシンデピュティを担当していた甲斐助手だが、デビュー2戦目までは蒔田厩務員が担当していた。橋口調教師によれば、当時のワンアンドオンリーは馬っ気がきつく、調教でも立ち上がったりして気の荒い面を見せていたため、人馬ともに危ないという判断で乗り運動ができる若い持ち乗り助手に担当を替えたのだという。その際、トレーナーは蒔田厩務員に「申し訳ないが、君にはまた違う機会にいい馬をやってもらうから」と伝えたのだとか。
実はその「いい馬」というのが、土曜(20日)阪神の野路菊S(2歳オープン、芝外1800メートル)に出走するダノンメジャー。小倉の新馬戦で余裕しゃくしゃくの勝ちっぷりを見せて、鞍上の小牧太に「ついに大物が出た」と言わしめた素材である。結果的にダービー馬を手放すことになった男に対して、すかさず素質馬を任せるというのは橋口師ならではの心遣いだろう。
蒔田厩務員といえば、九州産馬ながら一般馬相手に素晴らしいスピードで圧倒したコウエイロマンや、ゴドルフィンマイルで日本調教馬による海外ダート重賞初制覇を成し遂げたユートピア、NHKマイルC勝ち馬ロジックなどを担当し、橋口厩舎栄光の歴史を作ってきた人物の一人。ぜひともダノンメジャーにはワンアンドオンリーに続く活躍を期待したいものである。
(栗東の坂路野郎・高岡功)