スマートフォン版へ

ノーザンリバーが断然人気に応え差し切り勝ち 本番へ向け視界良好/東京盃・大井

  • 2014年10月02日(木) 18時00分

(撮影:高橋正和)



相当な武器となる末脚

 南関東の取材に来る常連の人たちと、「今のダート短距離にはスター的な存在がいないよね」という話になった。少し前には、長きに渡って注目されたスーニの存在があったし、地方贔屓な視点では、ラブミーチャンが出ていれば華になったしスピードもあった。また地方馬で唯一のJBCの勝ち馬フジノウェーブも芦毛で人気があった。活躍とまではいかないが、気がつけばいつも出走表に名前があったダイショウジェットは、今は名古屋に移籍している。そうした、「ダートの短距離ならこの馬」とすぐに思い浮かぶような馬が、たしかにいない。

 今回の東京盃の中央勢では、タイセイレジェンドが一昨年のJBCスプリントを制し、この東京盃には連覇がかかっていたが、近走は不振。セイクリムズンも一昨年などはダートグレード4連勝と勢いがあったが、2013年以降は黒船賞連覇があるのみだ。

 とはいえ、終わってみれば、ノーザンリバーが単勝1.4倍という支持に違わぬ強さとスピードを見せた。午前中に少し雨があったとはいえ良馬場発表で、勝ちタイムの1分10秒2は、2011年のJBCスプリントでスーニがマークしたコースレコードにわずかコンマ1秒及ばないだけというもの。

 押してハナに立った浦和のサトノタイガーは、前半3Fを33秒8というハイペースで飛ばした。内枠でもあり、おそらく「逃げ」という指示があったのではないだろうか。過去5年の東京盃と、同じ大井1200mの東京スプリントを含めても、前半33秒台というハイペースは過去にたった1度だけ、2010年の東京盃をサマーウインドが逃げ切ったときしかない。そもそも過去5年のこの両レースを合わせても、逃げ切り勝ちというのはそのサマーウインドと、昨年の東京盃のタイセイレジェンド(このときは3頭ほぼ併走での逃げ)しかいない。大井1200mのダートグレードはどうしても前半がオーバーペースになりがちで、レースのラップを見ると、ほとんどが前半34秒台で、後半は36秒台から37秒前半というもの。勝ち馬のラップでは、前半が34秒後半から35秒台で、上がりは35秒台後半から37秒台前半というのが標準的なところ。

 今回勝ったノーザンリバーは、スタートでダッシュがつかなかったということもあるが、最初は8番手を進み、4コーナーでもまだ7番手という位置取り。直線、残り150mあたりで先頭に立ったのはドリームバレンチノだったが、これを差し切ってというもの。ノーザンリバー自身のラップは、前半35秒1で、上がりもまったく同じ35秒1。大井1200mで、勝ち馬のペースが前半と後半でイーブンラップだったというのはきわめてめずらしい。前半に無理しなかったとはいえ、大井のダートで上がり35秒1というのは驚異的だ。ノーザンリバーのレースぶりでは、さきたま杯も印象的だった。直線で単独先頭だったトキノエクセレントがほとんど勝ったかに思えたが、浦和の短い直線で4コーナー4番手からたった1頭だけ鋭い追い込みを見せ、クビ差交わしてというもの。今年のノーザンリバーは、地方では4戦して3勝。唯一かきつばた記念では惜しくも2着だったが、これは水の浮く不良馬場で参考外。この馬の末脚は、ダート短距離路線、特に地方の舞台では、相当な武器となりそうだ。本番のJBCスプリントは断然人気で迎えることになるだろう。

 2着は1/2馬身差でドリームバレンチノ。昨年のJBCスプリントからダート路線に参戦するようになり、これで地方のダートグレードは、4戦1勝2着3回。金沢、園田、高知、そして今回が大井と、すべて異なる競馬場でのもの。今回は約半年ぶりの実戦だったということもあり、JBCスプリントに出走してくるなら、初めての盛岡コースでも楽しみな存在だ。ちなみにこの日の大井は、東京盃も含め全12レースのうち8レースで1番の馬が連対。ドリームバレンチノには、枠順的に有利に働いたところはあったかもしれない。

 セイクリムズンは、3カ月半ぶりの実戦とはいえ、馬体重のマイナス32kgには驚かされた。それでも2着ドリームバレンチノから2馬身差の3着と好走。500kgを割ったのは2010年以来のことで、前走の524kgはいかにも太かったが、510kg台前半にきっちり仕上げてくれば8歳でもまだまだ勝負になる可能性はありそうだ。

 さて、冒頭で、ダート短距離路線にスター的な存在がいないと書いた。それはたとえば初重賞制覇を果たしたばかりという中央馬が、地方で行われる交流重賞では除外の対象になりやすいということも要因としてあるのではないか。今回でいえば、いずれも今年になってダートグレードを勝っている、サマリーズ、アドマイヤサガス、キョウエイアシュラらが揃って補欠から繰り上がれなかった。これでJBCスプリントにも出られなければ、伸び盛りの若い芽が摘み取られてしまったということにもなりかねない。

 『地方競馬に吠える』のコラムで書いて、東京盃の予想でも書いているので、「またかよ」と思われる方がいたら申し訳ない。でもこれは、地方で行われるダートグレード、特に1400m以下の短距離路線においては大きな問題だ。ダート1400m以下のGII/JpnIIは、中央を含めても、さきたま杯と東京盃の2レースしかなく(2歳戦は除く)、そしてGI/JpnIはJBCスプリントが唯一。となれば、特に秋の東京盃からJBCスプリントに、その路線のスペシャリストが集中するのは当然のこと。そういう状況で、中央枠が5〜6頭に絞られてしまうのはやはり無理があるのではないか。将来的な活躍が期待できそうな新鋭に出場機会が与えられないというのでは、スター的な存在が出てくる可能性も限られてしまう。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング