▲同タイプがいた場合にどう戦うのか? 逃げ馬の鞍上としての心構え伺います
去年の秋から一気に本格化したアンバルブライベン。“どんなレースでも逃げる”田中騎手自身その覚悟を持ち、また周囲にもそのイメージが定着してきています。それだけに、同タイプがいた場合が難しいのでは? 今週は、逃げ馬の鞍上としての心構え伺います。(取材:赤見千尋)
(つづき)
短距離馬にしては珍しいタイプ
赤見 去年の秋から一気に強くなったイメージがあるんですけど、レースぶりの変化というお話がありましたが、馬体面で変わったところもあるんでしょうか?
田中 そうですね、使っても体が減らなくなりましたね。昔は使っていくと、カリカリして体重が減ったりしてたんですけど、今はレースの反動が出なくなりました。今も、いい感じにふっくらとしてます。
赤見 それは精神的な変化でもある?
田中 精神的にも成長したんだと思います。以前はゲートでも中で動いてしまって、出遅れることがあったんです。それでも速いので、前には行けていたんですけど、最近はそういうこともあまりなくなりました。むしろ、おとなしすぎてゲートを出なくなってきてたところも…。
赤見 どっしりしてきたんですかね。私失礼ながら、ずっと牡馬だと思ってたんです…。
田中 牝馬だって知らなかったでしょう(笑)?
赤見 はい(苦笑)。名前の響きも力強いし、勝手に牡馬だとばかり思っていて。
田中 実際に馬を見たら女の子なんですけどね。でも、体つきがしっかりしてるから、男馬に見えなくもないかもしれません。背も低くないし、トモもがっちりしてる子なので。
赤見 普段はどんな子なんですか?
田中 とてもおとなしいです。ここ最近は調教にも乗せてもらってるんですけど、手はかからないと思いますね。
赤見 女の子らしい気難しさとかはないんですか?
田中 危ない感じはないですね。普段は本当におとなしくて、担当の方もやりやすいんじゃないかなと思います。
赤見 女の子で短距離馬なのに、珍しいですね。
田中 そうなんですよね。そういうところでは“1200mの馬”っていう感じはしないです。調教でも、キャンターで乗ってるとゆったりしてますし。だけど、速いところに行かすとガッと動くので、メリハリがついている馬だなとは思いますね。短距離馬ではあまりいないタイプかもしれないです。
「以前なら負けパターンでした」
赤見 レース中で難しいと感じる部分はありますか?
田中 レース中でもないです。すごく乗りやすいですね。
赤見 前走のシルクロードSでは、ニザエモンにがっちり横につけられたじゃないですか。ああいうのも平気ですか?
田中 あれは結構離れてたっていうのもあるんですけど。でも、前だとそうやって被されるのは苦手だったんですが、今はそれも大丈夫になりました。
赤見 ご自身ではどうでした? 「うわっ! なんか来てるよ」って?
田中 いやいや(笑)、ニザエモンが来ることは分かっていたので、気にしなかったですね。そこは気にしてもしょうがないですから。相手がどうこうの前に、自分が逃げるだけなので、相手に前に出られないようにだけ考えてました。
赤見 逃げてると道中で馬体を合わされたりとか、4コーナーでも合わせて来られたりするじゃないですか。それでも、いつも粘りますよね。
田中 今は、そうですね。早めに来られたりすると、昔なら最後方ぐらいまでずるずる下がってしまうこともあったんですけど。だから本当は、京阪杯は一番嫌な形だったんですよね。
赤見 サカジロロイヤルが、スタートしてから最後の直線までぴったりつけていて。
▲以前なら負けパターンだったという京阪杯、逃げるアンバルブライベン(内)とマークするサカジロロイヤル(中、緑帽)
田中 ペースは遅かったけど早めに来られるっていう、以前なら負けパターンです。でもこの時は、さすがに最後は脚色が変わったんですけど、そこからもうひとがんばりしてくれました。あの粘りには、僕もびっくりしましたね。
赤見 逃げ馬同士のポジション取りって熾烈ですが、ジョッキーの間でレース前に牽制したり駆け引きってあるんですか?
田中 いや、そういうのはあまりないですね。やっぱり競馬なので、「俺が逃げるんだから来るなよ」とは言えないですよね。もし相手が僕より先に行ったとしたら、それは相手のスタートの方が良かったということで。だからシルクロードSの時も、「行かせてくれたらいいな」とは思いましたけど、まっちゃん(松山騎手)とはそういう話はしなかったです。でも、気を遣ってくれましたけどね。ニザエモンは外を回ってくれて。
赤見 お互いに勝負にならないような形でつぶれてしまっては、元も子もないですし。
田中 レースが終わってからなら、話をするんですけどね。この時も「大丈夫でした?」って言ってくれて。でも、レース前はないです。仲が悪いとかではなくて、そこは勝負ですので、自分も相手もチャンスがあると思っているわけですからね。お互いに逃げたいのは分かっていたので、僕も負けずに行ったという感じです。
▲「お互いに逃げたいのは分かっていたので、僕も負けずに行ったという感じです」
赤見 今のアンバルブライベンだったら、相手が来ても引かないじゃないですか。特に外枠だったりすると、主張して行くときもありますよね?
田中 押して行きますね。このクラスになったら、馬なりでハナに立てるほど甘くはないですから。鞍上もそういう覚悟をしておかないと、行かせてもらえないでしょうし。ただあの馬の場合は、主張して行っても引っかかることがないので、自信を持って行くことができます。
赤見 「この馬がいれば、逃げるんだろうな」みたいなイメージにも、なってきましたよね。
田中 そうですね。そういうイメージがついてきてくれたんで、行かせてくれる時もあります。でも逆に、それで絡まれちゃうときもあるんですけど、それもあの馬との競馬だと思って、腹をくくっています。(つづく)