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9歳にしてなお一線級のワンダーアキュート/かしわ記念

  • 2015年05月06日(水) 18時00分

(撮影:高橋 正和)



再度2強不在となれば、9歳での帝王賞連覇という期待も高まる

 それにしてもワンダーアキュートの、9歳になってもなお衰えぬ力強い走りには驚かされた。馬体重は前走からマイナス16kgの508kg。もともと輸送などによる馬体の増減が大きく、5歳以降たびたび地方のダートグレードに遠征するようになって、おおむね500〜520kgの範囲で好走していた。前走フェブラリーSの東京に輸送しての524kgというのはやや太く、それでいて着順こそ9着だが、勝ち馬からコンマ5秒差は、年末の東京大賞典の大敗を思えば、むしろ評価すべきだったのだろう。

 振り返ってみれば、ワンダーアキュートが勝ち馬から1秒以上の差をつけられて負けたのは、4歳時、スマートファルコンによる驚異的なレコード決着となった東京大賞典での10着(3秒4差)があり、昨年末の東京大賞典の1秒9はそれ以来じつに4年ぶりのことだった。今思えばその一戦の大敗をもって、“年齢的な衰え”と片付けるのは早計だったようだ。フェブラリーSは太め残りでもそこそこに走っており、それで今回、もう一度関東まで遠征してのマイナス16kgはベストの状態だったということなのだろう。

 かつてパドックでは闘志をむき出しにするかのようにうるさかったワンダーアキュートだが、たしかにここ何戦かはかなりおとなしくなっていた。今回のパドックでも落ち着いていたので、やはり年齢的なものがあるのだろうかと思って見ていたのだが、鞍上がまたがると、みるみる気合が乗った。その後、実は馬券を買いにいってしまって見ていなかったのだが、あとで聞いたところによると、馬場入場では暴れるほどの状態だったらしい。今回の鞍上は2013年のフェブラリーS以来、じつに2年以上ぶりとなる和田竜二騎手に戻った。馬はおそらくそのことをわかったのだろう(調教では少なくとも3週前から和田騎手が乗っていたようだが)。

 レースを引っ張ったのは大外10番枠に入った大井のセイントメモリー。最近は好位に控える競馬をしていたが、このメンバーで控えては勝負にならないと考えたのだろう。何が何でもという気合を鞍上が見せてハナをとった。直後に中央勢+ハッピースプリントが一団で続き、中央馬の中でも唯一クリソライトだけが前半はその集団からやや離れた位置を追走した。

 セイントメモリーのつくったペースは、前半が、12.1-11.2-12.3-12.6 と、ほぼ緩みのないもの。そして中間の残り800mのところからペースアップし、後半のラップは、12.0-11.8-11.8-13.6 というもの。11秒台のラップを刻んだのは3コーナー付近からで、ベストウォーリア、ハッピースプリントが楽な手ごたえのまま後続を離しにかかったところだ。これに懸命に食らいついたのがワンダーアキュートで、4番手以下はここで勝負あった。その手ごたえから、勝つのは前の2頭のどちらかに思われたが、直線半ば、その2頭の間から力強く抜け出したのがワンダーアキュートだった。

 早めに抜け出した馬を目標に3〜4コーナーから追い出し、そして直線で突き抜けるというレースぶりは、JpnI初制覇となった2012年のJBCクラシック(川崎)を見るようだった。和田騎手でのワンダーアキュートの勝利はそれ以来2年半ぶりのこと。

 2強不在で争われたJpnIで台頭したのは、若い世代ではなく、エスポワールシチー、スマートファルコン、トランセンドなどがいたダートの最強世代と渡り合い、なお衰えを見せていなかった9歳馬だった。9歳馬によるGI/JpnI制覇(障害は除く)は日本ではおそらく初めての記録ではないだろうか。次走は帝王賞とのこと。コパノリッキーは間に合わず、ドバイ帰りのホッコータルマエが出てくるかどうかだが、再度2強不在となれば、9歳での帝王賞連覇という期待も高まる。

 2着は1番人気に支持されたベストウォーリア。2番手追走から3コーナーで先頭に立ってという正攻法で、今回は勝ち馬を褒めるしかない。予想で「ベストはマイル以下」と書いたが、実のところマイルはぎりぎりの距離で、ほんとうのベストは1400mなのかもしれない。ただダート1400mの大レースというとJBCスプリントがその距離で行われるときに限られ(近いところでは来年の川崎)、昨年の南部杯がそうだったように、GI/JpnIタイトルを重ねるには相手次第ということになるのかもしれない。

 惜しかったのがハッピースプリントだ。3〜4コーナーでは手ごたえ十分のままベストウォーリアをぴたりと射程圏にとらえ、直線半ばでは一旦完全に先頭に立つ場面があった。ただ4コーナーを回るときに、一瞬、外ラチのほうに飛んでいってしまうのかというほど膨れてしまい、それがなければもう少しきわどい勝負になったかもしれない。今回はホッカイドウ競馬時代の主戦だった宮崎光行騎手に戻ったが、なかなか難しいところがある馬のようだ。ただ持てる能力を発揮できれば、地方のGI/JpnIなら(すでに2歳時に勝っているが)どこかでチャンスはあるのではないかという可能性は見せた。

 クリソライトはハッピースプリントから4馬身差がついての4着。やはりこの馬にマイルの厳しい流れは合わない。ただ地方のマイル戦では息の入る流れになることもめずらしくなく、そういう展開や相手に恵まれれば、能力の違いで勝つことは考えられる。

 サンビスタは、チャンピオンズCやフェブラリーSでも好走といえる走りをしていただけに2強不在ならと本命にしたが、結果は、勝ったワンダーアキュートから1秒8差をつけられての5着。1番枠からのスタートで5番手の内を追走。強力な牡馬たちに囲まれて、手ごたえをなくしたというより、3コーナーあたりから走る気をなくしてしまったという感じだった。ホクトベガやファストフレンドなどが活躍した時代と違い、ダート路線の層が格段に厚くなった今、短距離ならともかく、マイル以上のダートGI/JpnIで牡馬を相手に牝馬が勝つのは容易ではないことをあらためて思わされた。

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1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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