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石橋調教師も絶賛「2週前にしてもそれほどやるつもりはなかったのに、ラスト1ハロンは11秒台。すごいよね」

　連日のようにうだるような暑さ。関西馬の調教基地のある滋賀県栗東市は、首都圏に比べれば朝晩などはそれなりに涼しくなるが、太陽が昇った瞬間に一変。ドラキュラも一瞬で蒸発しかねない気温に達する。

　もちろん、暑いのは人だけではない。年中毛皮を着込んでいるサラブレッド…特に体力のない2歳馬にとっては一大事でもあるのだ。先日、ゲート試験をクリアしたオウケンビリーヴ(牝＝父クロフネ、母ビスクドール)を管理する安田調教師は、合格の声を聞くや即放牧を決断した。

「乗った人はみんな褒めるし、ホントいい馬。能力はあると思います。ただ体力がまだない。内視鏡でノドをのぞいてもらったら『まだ呼吸器が発育途上』とも言われました。なので焦って使うよりは、一度放牧に出して、体力をつけてからデビューを目指していきたい」

　この決断の後押しとなったのが今春の桜花賞3着馬で、「コンテッサトゥーレも早くに入厩したのですが、息遣いがまだ悪くて…。夏を無理させず、山元トレセンで過ごさせたんです。そうしたら秋には息遣いも良くなってましたからね。オウケンビリーヴもこのパターンで」。

　人の世界でも、かつては「暑くても水を飲んではダメ。休む時も手をヒザにつくな」などと部活などで厳しく指導されたものだが、それも今は昔。水分補給は当然のこと、「休養もトレーニングの一環」という考えが浸透したことで、十分な休息が取り入れられるようになった。

　対してサラブレッドの世界では、以前から「大物は秋から」と言われ、いわゆる期待馬は適度な運動と休息を与えられていた。このあたりはアスリートの一歩先を行っていたと言っていいかも。一方で夏場にデビューする馬は「早熟」と決め付けられていたフシがあり、夏の2歳Sで「燃え尽きてもいい」くらいに使い倒されたりもした。

　しかし、近年は夏デビューの馬たちの様相も変わってきた。前出のオウケンビリーヴのような選択肢がある一方で、「暑いからといってレースはあるんだから。そこに向けて使っていかないと」という考え方も当然ある。特に夏に使うことに積極的なあるトレーナーは「何だかんだで夏を乗り切った馬は精神的に強くなる」と力説する。

　根性論はあまり好きではないが、長年この世界にいて感じるのはメンタルのコンディション調整の難しさ。夏の小倉でデビューしたメイショウサムソンも、ワンアンドオンリーも、暑さに耐えたからこそ、ダービーの栄冠を手にしたと言えないだろうか。前時代的だが、サラブレッドの戦う心、耐える心を養うのに、暑さはひと役買っているのかもしれない。

　この夏の暑さにもへこたれず、元気な姿を見せている馬を紹介しよう。カジノスマイル(牝＝父カジノドライヴ、母コンペリングリーズン・石橋)だ。先週(7月29日)は坂路で2歳馬の一番時計となる4ハロン52.5-12.2秒をマーク。その前週(22日)には52.8-11.8秒と抜群の切れを披露した。“夏女”としての素質は高そうだ。

「牝馬にしてはカイバを食べてくれるし、順調に乗り込めている。2週前にしてもそれほどやるつもりはなかったのに、ラスト1ハロンは11秒台。すごいよね」と石橋調教師も調教の動きを絶賛する。

　気がかりなのはデビューが来週(15日の小倉ダ1000メートルを予定)とまだ先なこと。攻め駆けする馬は調教だけで心身をすり減らすことがある。今週、来週の調教、そして長距離輸送を控え、どう調整していくかがカギになるが、「レースまでは週末に速いところをやらず、水曜に1本のペースで続けていく」ことで乗り切ろうとしている。

　開業して2年目の石橋厩舎は新馬戦は未勝利。“真夏娘”が小倉で躍動した時、石橋厩舎に初の新馬勝ちがもたらされることになりそうだ。