スマートフォン版へ

「橋口先生も来年2月で引退されるからこの秋はいい競馬をしたい」甲斐助手にインタビュー

  • 2015年09月08日(火) 18時00分
競馬の職人

レッドアリオンとツーショット



甲斐助手「香港へワンアンドオンリーとレッドアリオンの2頭で参戦したいですね」

 衝撃! 9月7日付けの朝刊に『藤田伸二騎手が鞭を置いた!』との報道があってびっくり。えっ、どうしたん? 突然の引退に関係者もファンの皆さんも驚かれたでしょう。96年のフサイチコンコルドとのコンビでダービー制覇は圧巻でした。今でもよく覚えています。皆さんも数々の思い入れがあるでしょうね。

 昆厩舎へ行くと藤田騎手が馬房の前で馬と話している姿を思い出します。

 このコラムにも登場していただきたく取材をお願いしたことがあるんですが『僕は何もしていないよ。馬が頑張って走っているおかげだから馬のことを書いてあげてくれたらいいよ!』と言っていました。そんなことがつい先日のことだったような気がします。いつも冷静で、騎乗スタイルがとってもきれいな先輩でした。とっても残念ですが出身地で鞭を置くと決めた真の強さを尊敬します。藤田先輩、いままでありがとうございました。

競馬の職人

藤田先輩、いままでありがとうございました(写真は2009年トレセンで)



 また、北の大地では世界の名手が集まりワールドオールスタージョッキーズが行われました。白熱したレースは見ごたえありましたね。小倉では松若風馬騎手が小倉ターフ賞、橋口弘次郎調教師が小倉重賞通算10勝を記録し、4度目の夏の小倉リーディングを獲得されました。シュウジでの小倉2歳ステークス制覇、おめでとうございます。

 JRA通算987勝で1000勝まであと少し、というところまできているので厩舎スタッフみんなが1000勝に向けて盛り上げています。厩舎へお邪魔しても活気あふれ勢いがちがいましたね。

 今週は、橋口厩舎の天日干ししている寝藁の優しい匂いがする馬房をのぞくとレッドアリオンで関屋記念を制覇した甲斐助手が待っていてくれました。勢いもりもりの話をお聞きしましたよ。

常石 今日はよろしくお願いします。

甲斐 こちらこそよろしくお願いいたします。すみませんが、仕事しながらでもいいですか? 天気がいいから今のうちに干しておかないとね。

常石 関屋記念優勝おめでとうございます。甲斐さんと言えばワンアンドオンリーでダービーを制覇したときにも取材させていただきましたね。あの時レッドアリオンはとなりの馬房でしたね。俺のほうが力があるのにお前先に優勝したなって感じかな?(笑)

甲斐 ありがとうございます。そうそう今は、オンリーが放牧に行ってるので違う馬がいるけどね。

常石 あのときからこの馬は能力の高い馬なんだよ、と言ってましたね。それがここで証明されましたね。余談だけど僕もオースミコスモでこのレースを勝ったので思い入れがあります。同じ1600mでも新潟は最後の直線が長いので力が要りますよね。

甲斐 入厩してきた時からほかの馬にはない、いい感じのもの持っているなーと感じていました。かなり能力が高いと感じていました。馬房の中でも元気だしね。オンリーはのんびりしたところがありマイペースなんですよ。だからはじめはあまり走るような感じはしなかったし体のバランスがまだ子供っぽいところがあったけれど、いざレースに行くと一生懸命走ってくれるんですよね。自分のペースを乱されたときはカッと怒りますね。いつも驚かされます。そのたびに『よー走ってくれたな』と褒めるんですよ。

常石 2頭とも全く違うタイプですね。

甲斐 アリオンは能力も力強さもありすぎて気が強いというか、わがままで我が強かったので扱いにくく、噛みつくようなしぐさもありますね。だから競馬に行くと思うように力が出せなくて悔しい思いをしていました。最近はレース前に無駄な動きはしなくなりました。大人になってきましたね。以前は外から交わされるともうレースをしなくなっていましたが、最近は最後までシッカリ走るようになってきました。脚質も問わないし自分のリズムを作って走れるようになりましたし、瞬発力もありますからレースでの楽しみが増えてきました。

競馬の職人

レッドアリオンの調教ゼッケン



常石 関屋記念の走りがまさしくそんな走りでしたね。

甲斐 川須騎手もアリオンの気質がわかり気持ちを大事に乗ってくれます。

常石 相性がいいですね。馬とピタッと合うことってありますよね。ピタッとはまると気持ちいいですからね。

甲斐 アリオンの気持ちや、やんちゃな性格もわかってくれています。レースに集中して自分でONとOFFのスイッチの切り替えもできるようになってきました。雨が降ったら今日は駄目と思い、やめてしまうところはありますがね。気性面で大人になってきたので扱いやすくなってきましたね。今が一番いい感じだと思う。

 オンリーもアリオンも良い馬でシッカリ走ってくれています。今後も楽しみな馬ですが全くタイプが違いますね。オンリーは、ゲートが開くまで力を出さずに待ってスタミナ勝負をしますが、アリオンはパドックでチャカチャカしてみたり力んでいるような仕草をしてみせます。関屋記念では、川須騎手がアリオンの気持ちを大事にして乗ってくれましたね。二の脚を使い並んでからもうひと伸びしたときは『行け!』と手に汗握りました。アリオンの気の強さがレースにつながるんだと思います。

常石 僕も見ていましたが並んだときは一瞬危ないかと思ったけど、グワーンとひと伸びしたときは、すごい根性やと思いましたね。こんな強い馬に跨って伸びるときの感触、気持ちよさは最高ですよ。ライバルになる馬はいますか?

甲斐 アリオンは、自分自身がライバルで自分との戦いです。レースで最後まで一生懸命走ることですね。力があるので結果がよくなってきます。ですがちょっとでも気持ちのムラが出ると結果を出せなくなってしまうからね。気を緩めないように踏ん張って行きたいですね。

常石 秋に向けての展望を教えてください。

甲斐 香港マイルへ行きたいと思っていますがその前にもう1レース頑張ってほしいですね。同じ行くなら招待されていきたいと思います。香港へワンアンドオンリーとレッドアリオンの2頭で参戦したいですね。橋口先生も来年2月で引退されるからこの秋はいい競馬をしたいと思っています。厩舎みんなで頑張ろう! と言っています。1000勝まであと少しでしょう。気合入りますよね。

競馬の職人

年末は香港マイルが目標のレッドアリオン



常石 わおー! それは楽しみです。香港へ是非応援に行きたいなーと思っています。招待されたときは馬運車に乗せてくださいね。

 実は僕、大失敗してしまったんです。1000勝って言葉を耳にしていたので1000勝達成されたのだと思い先生にお祝いの手紙を渡してしまいました。1000勝って数字はとっても偉大なので僕のほうがまいあがってしまいました。大失態です(ぺこり)。

甲斐 常さんの思いが無駄にならないように僕たち頑張ります。

常石 ありがとうございます。僕の中では地方と外国レースを入れると1000勝だったんです(弁解…)。改めてお祝いできる日が来るのを待って応援しています。

甲斐 そうですね。頑張ります。

常石 橋口先生が引退という感じはありますか? お父さんからずっと橋口厩舎でしょう。

甲斐 先生の笑顔を見ていると年齢を感じないし厩舎にお世話になったのがついこの間のような気がしますね。先生の息子さんが調教師になられたので厩舎を引き継いでくれると思います。だから先生の引退は感じませんね。

常石 甲斐さんもいつも穏やかですよね。先生に似てくるのかな。

 僕もデビューの時からずっと橋口先生にはお世話になっています。同期の(高橋)亮が所属だったのであんちゃんの時先生に『頑張れよって』坊主頭をなでてもらいました。競馬学校で一緒だった山ちゃん(山手助手)もこの厩舎なのでよく来ましたね。今でも取材させていただきお世話になっています。ちょっと寂しくなりますが、ずっと追っかけします。よろしくお願いします。

甲斐 おっかけされちゃうのかー、それは大変だなー。ではツーショットの写真はお断りですね(爆笑)。応援よろしくお願いします。

常石 ストーカー対策ですね(笑)。ではアリオンとツーショットにします。今日は貴重なお話、長い時間ありがとうございました。

***

 この取材の後、小倉2歳ステークスをシュウジで制覇。小倉重賞10勝そして通算4度目の夏の小倉リーディングを獲得され、九州出身の先生にとって最高の夏競馬だったでしょう。厩舎スタッフも一丸となって取り組んでおられるパワーを僕もたくさんいただきました。でもギスギス感はなくほっこり和やかムードが橋口厩舎なんですね。橋口厩舎はいいわー。

 つねかつこと常石勝義でした。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング