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産駒がゲート難で米国に“帰らされた”エンパイア産駒の救世主/吉田竜作マル秘週報

  • 2015年10月15日(木) 18時00分


“強い自制心”がカイザーバルの生命線

 輸入された産駒、持ち込みで生まれた産駒の成績が優秀で、そこから日本へやってくる種牡馬は少なくない。アルデバラン、サザンヘイロー、トワイニングはその典型例だ。近年で言えばエンパイアメーカー。日本では少数の産駒ながらフェデラリスト(12年中山記念など)、イジゲン(12年武蔵野S)がインパクトのあるレースを見せ、米国でも初年度産駒からGIウイナーを輩出。こうした背景もあって10年に日本軽種馬協会が導入を決めた。

 生産者やホースマンは恐らくこの馬に大きな期待をかけ、夢を見たことだろう。導入から種付け頭数は200頭前後をキープし、人気を不動のものとした。今年も350万円という安くない種付け料にもかかわらず146頭に種付けしていた。そんな時に飛び込んできたのが米国への復帰のニュース。そして10月5日。日本軽種馬協会から正式に米ケンタッキー州のゲインズウェイファームへの移籍が発表された。為替レートの差があるにせよ、軽種馬協会の導入時より高い移籍金での復帰が示すように、まさに「望まれて」の帰還。ただ、これだけの人気種牡馬をあっさりと手放してしまうことに疑問を感じる人もいるだろう。その原因の一端かどうかは定かではないが、実を言うと栗東トレセンでのエンパイアメーカー産駒の評判はすこぶる悪いのだ。

「ちゃんと数えたわけじゃないが、恐らく半分から6割くらいはゲートが悪いんじゃないか」と指摘するのは松田博調教師。現在、ナムラビクターの半弟ナムラアラシ(父エンパイアメーカー、母ナムラシゲコ・目野)のゲート練習を見守る柳田助手も「用心して練習していたんだ。それが練習してきた人間とは違う騎手を乗せた途端に、ゲートの前でビタッと止まって動かなくなってしまった」。

 先日、夕月特別(9月26日)で1.5倍の支持を集めながら17着と大敗を喫したナムラアン(牝3・福島)も「ゲートの中で落ち着きがなくて出遅れてしまった。それで騎手は何もできなかったみたい」とは担当の花田助手。もちろん、ここに挙げたのはほんの一例。「ゲートに立ち会う職員から『エンパイアの子だから気をつけた方がいい』と言われた」とか、「馬主さんに『エンパイアの子を買ってあげるよ』と言われたのですが、丁重にお断りしました」という某調教師までいたくらい。

 本当かどうかはわからないが、「アメリカの産駒が走っているのは向こうでゲートボーイ(ゲートの上で馬を制御する係員)がいるからじゃないか。日本ではそれがないから、みんなゲートで問題を起こす」との話まで出ている。

 活躍馬を出した美浦はいざ知らず、栗東では「ゲートをやり始めた途端におかしくなる」という認識が大半なのだ。

 ただ、そんなお騒がせなエンパイア産駒から“救世主”が誕生した。それが9月21日阪神芝外1600メートル(牝)の新馬戦を圧勝したカイザーバル(母ダンスインザムード・角居)。実を言うとこの素質馬とて一度はゲート試験に落ちているのだが、2度目の試験で合格に導いた辻野助手はこの馬の“違い”をこう説明する。

「ゲートの中でゲート(パイプ)をかんでいたくらい。気性が強いので変な気持ちを起こさせないように気をつけてきました。ゲートの中でも何かためているような感じはするのですが、爆発するようなことがない。それがこの馬のいいところ。気が強いのですが、それでいて我慢できる」

 ともすれば“閉所恐怖症”を思わせるエンパイア産駒にあって、この“強い自制心”がカイザーバルの生命線となっているのだろう。次走は31日のGIIIアルテミスS(東京芝1600メートル(牝))が予定されている。長距離輸送、初コースなど課題はあるだろうが、ここをクリアすれば一気に桜の頂点すら見えてくる。海を渡って帰国した父に吉報を届けてほしいものだ。

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