2週前から闘志むき出し ダービーフィズに吉兆ムード/トレセン発秘話
◆「戦闘モードに入っている」ダービーフィズ
英国人はあいさつ代わりに天気の話をするというが、競馬記者の場合はレースの話。勝った時は「おめでとう」だし、負けた時は「残念でした」。これが厩務員との会話の始まりだ。まだ戦いの余熱がある段階で、次回に向けてのヒントを探っておこうという魂胆もある。そんな中で鮮明に記憶に残るのは、毎日王冠の翌週、2着ディサイファの矢崎高志厩務員と交わした“あいさつ”だ。「残念でしたね」と振ると、思いがけぬ声が返ってきた。
「レースちゃんと見てたの? ちっとも残念じゃない。あの結果、オレは大満足だけどねぇ」
こちらは◎を打ち、美浦居残りで前日取材までした身。さすがに“レース見てた?”は心外だったが、矢崎さんの言葉の意味はよく分かる。当時は放牧を挟み九分手前の仕上がり。2着に終わったとはいえ、勝ち馬エイシンヒカリの脚は完全に測れたし、3着以下には完勝という内容。トライアルという視点で捉えれば、満足というのも納得だ。
「勝ち馬の(鞍上の)ステッキが鼻面に当たってもひるまなかったし、レース後のダメージもなし。天皇賞に向けて、上がり目はあっても下がり目はないんじゃないの?」
早くも天皇賞の本命が決まった瞬間。いや、そのはずだったのだが…。実は直前になり心をグラつかせる馬が浮上してきた。“2頭出しは人気薄”の格言ではないが、気になるのはわが宴会仲間であるヨッちゃんこと吉田芳行厩務員。彼が担当する小島太厩舎のもう1頭=ダービーフィズだ。
「2週前から馬に完全にスイッチが入っちゃって、こっちはそれを抑えるのに大変。ヤンチャというか、闘志むき出しでね。牡馬を見るとケンカを売りに行くくらい、戦闘モードに入っている。この前なんか(僚馬の)ダウトレスに襲いかかろうとするんだから。この馬とは長い付き合いだけど、この“かかってこいや”状態は初めてだな」
この“あいさつ”はレース翌週でなく直近の先週末。ペットは飼い主に似るというから、その意味ではダービーフィズとてリアル・ビーバップ、すなわち“不良化”して不思議はないのだが…。ホクホク顔のヨッちゃんを見ればこれぞ吉兆という予感。昨年は重賞未勝利の5歳馬スピルバーグが衝撃の盾制覇を果たしたが、高校デビューよろしく大変身を遂げた5歳馬ダービーフィズにも同等のキナ臭いムードが立ち込めている。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)