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引退馬の現状を知ることができる映画『今日もどこかで馬は生まれる』監督インタビュー

  • 2022年04月04日(月) 18時01分
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映画『今日もどこかで馬は生まれる』(提供:Creem Pan)


多くの馬が若くして命を終えている──。日本の競馬産業における引退馬支援について描かれたドキュメンタリー映画『今日もどこかで馬は生まれる』。netkeibaでもたびたび取り上げてきたこの作品が、4月1日よりnetkeibaTVでの配信がスタートしました。そこで改めて、監督の平林健一さんに、映画制作のきっかけや公開後の反響などをうかがいました。

(取材・文=佐々木祥恵)

この映画がきっかけで「引退馬支援が進んだ」と


──上映会やいくつかの劇場で公開されたのち、昨年の4月2日からオンデマンド配信されているわけですけど、反響、反応はいかがでしょうか?

平林 インディーズ作品なので爆発的なヒットというわけではないのですが、配信数に浮き沈みがない状況で推移しています。配信以外では、この映画のDVDを置きたいという依頼が代理店を通じて各市町村の図書館からあります。この1年で20近いオファーがありました。

──鑑賞してくれる人々が絶えないという状況ですね?

平林 そうですね。代理店の方にはこの映画は書籍のような側面があると言われました。発行年が古いものでも、本当に価値がある本ならば大事にされてずっと読み継がれていきますよね。

──なるほど。この映画も語り継がれてロングセラーになる可能性がありますね。ところで今はウマ娘が人気を博していて、この映画公開当初の2019年あたりとは競馬のファン層にも変化があったようにも思いますが?

平林 僕自身、競馬を見始めたり、引退馬に関心を抱くきっかけの1つが、ゲームのダービースタリオンでした。それと同じでウマ娘がきっかけで競馬が好きになって、そこから引退馬の問題に着目するようになり、この映画を観るという流れも当然考えられると思っています。

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『今日もどこかで馬は生まれる』東京競馬場での撮影の様子(提供:Creem Pan)


──引退馬協会が毎年行っている「ナイスネイチャのバースデードネーション」での寄付が、昨年飛躍的に伸びたのもウマ娘が影響していると言われているように、競走馬だけではなく引退馬や馬自体に関心が高まっているようにも感じますよね?

平林 そうですよね。現在はまだコロナ禍ですけど、理想としては実際に馬を見る、できれば触れることができれば、馬自体が好きという状況に繋がりやすいと思います。映画やSNSの動画や画像を見るだけではなく、できれば触れるところまでいってもらえればと思います。

──映画制作当初と現在では変わったなと思う点はありますか?

平林 仕事で角居勝彦元調教師やTCCの山本高之代表と話をする機会があったのですが、その際にこの映画があったことで引退馬支援が結構進んだというような内容を、おふたりそれぞれに仰っていただきました。映画には鈴木伸尋調教師が出てくださっていますし、競馬の業界の中でも引退馬について話をしても大丈夫だという雰囲気になってきたこともあるでしょうね。

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JRA調教師、鈴木伸尋調教師も出演している(提供:Creem Pan)


──平林さん個人では、変わった点はありますか?

平林 昨年の12月22日にCreem Panを法人化したことが1番の変化でした。それまでは映像制作を個人事業主としてやっていたのですけど、ありがたいことに業績が良かったので、税理士から法人化を考えてもいいのではという話が出ていました。ただCreem Panという名称で法人化することはかなり覚悟がいることだったんです。

──と言いますと?

平林 Creem Panとは別の名前で映像制作の会社を立ち上げて、Creem Panはそれまで通り本業以外のサークル活動のような形で残しておいて、この映画に関係する活動を細々とやっていくという選択肢もありました。映画の印象が強いですし、Creem Panという屋号をかかげて法人化すると、我々は引退馬の問題に関わり続けますよという意志表示になると思うんです。その点について、覚悟があるのかということを自問自答した期間が1、2か月ありました。

──覚悟を決めた理由は何だったのでしょう?

平林 損得抜きで自分が1番興味関心のあるのが引退馬支援だったということです。メディアを作る立場として、引退馬支援が1番情熱を持てることだったというのが、自分の中でははっきりしていました。ただCreem Panという名称だと「引退馬支援の会社」というイメージが強くなって、それ以外の仕事が入ってきづらくなり、経営を圧迫する可能性があるというのがブレーキとなって悩みました。でも映画を作ろうとしていた頃の方が大変だったのを途中で思い出したんです。

 映画制作当初は協力者が誰もいなかったのが、アクションを起こすと助けてくれる人がたくさんいるということをその時に学びました。今回も法人化すると宣言して、一生懸命取り組んだらきっと見てくれている人はいるはずだから、行けるところまで行ってみようという結論に至りました。映画を作って公開してそれが一区切りと最初は思っていましたけど、それが始まりに過ぎなかったとしみじみ思いますね。

──法人化してみていかがでしたか?

平林 ありがたいことにTCCの「馬のみらいアクション」の各種コンテンツ制作やテレビ東京の競馬関係の特番の制作、法人化以前から関わらせていただいている新潟馬主協会の仕事など、馬関係の仕事を多くやらせていただいています。

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新潟馬主協会の特別座談会企画の収録風景。ゲストは福永祐一騎手、角居勝彦元調教師(提供:Creem Pan)


劇中…実はあの名馬も登場!?


──その中でもやはりこの映画は、Creem Panの軸といいますか、基盤だと思うのですが、改めて見どころを教えてください。

平林 映画を撮り出した頃は手探りでしたけど、作っていく過程で引退馬の問題に対する答えが見つかるのではないかと思っていました。でも映画が出来上がってみて、それに対する答えはない。違う表現をすればゴールは1つではないと思うようになりました。

──映画には競馬や引退馬に関わる様々な立場の人が出演していましたが、それぞれの立場によってこの問題のゴールが違うということでしょうか?

平林 はい。それぞれケースバイケースで、そのケースに合ったゴールを設定していくといいますか…。この問題はあまりに大き過ぎて、それこそ大きな岩のようなものだと思うのですけど、引退馬の問題に取り組む方々が東西南北の様々な角度からその岩をコツコツコツコツと削っていっているのではないかと思います。

──確かに問題が大きくて気が遠くなりそうですし、まだ混沌としていますね。

平林 この間、映画を見返す機会があったのですけど、結構丁寧に取材して丁寧に作っているなと、手前味噌ですが感じました。引退馬問題の混沌とした状況も1時間半という上映時間の中で、しっかり感じ取れるように作ってありますし、映画を観ていただければ引退馬にまつわる現状を知ることができると思います。

──それこそウマ娘から競馬に興味を持った方々にも、観ていただきたいですね。

平林 はい。実は映画の中にゴールドシップが登場しているんです。どこに出ているのか、是非探してみてほしいですね(笑)。


(文中敬称略)



▽ Creem Pan
https://creempan.jp/

▽ 『今日もどこかで馬は生まれる』公式サイト
https://creempan.jp/uma-umareru/index.html

▽ 新潟馬主協会
https://niigata-rho.jp/symposium.html

▽ 馬のみらいアクション
https://camp-fire.jp/projects/view/538317

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