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ハ行の原因究明と6人の騎乗停止

  • 2023年05月04日(木) 12時00分
 日高取材からの帰途、新千歳空港のラウンジでこれを書いている。正確には、取材後、編集者・カメラマンと別行動となり、札幌の生家に近い寺の納骨堂にお参りに行き、プラス1泊した帰りである。

 今は他人の所有物でも、あの家で生まれ育ったのだから、「生家」と表現しても誤りではないだろう。「生まれ育った」と書いたが、正確には、生まれたのは札幌市内の病院だ。ついでに言うと「プラス1泊」としたのは、その前日、浦河に1泊していたからである。

 こういう場合、どこまで正確に記すべきなのか。細かな説明を省くときも、もちろん、正確を期すことに変わりはない。が、特に、この手のコラムの書き出しは、端的に記さないと、先を読んでもらえない。

 であるから、北海道での用事を終えて、これから飛行機に乗る、ということさえ伝われば、細かなことは記す必要がない。というか、場合によっては、記さないほうがいい。

 さて、先週の天皇賞・春で1番人気に支持されていたタイトルホルダーが、4コーナーで競走を中止した。レース当日の診断は「右前肢ハ行」と発表された。ハ行がどんなものか、本稿の読者には説明不要だと思うが、ご存知のとおり、病名ではなく、歩様に異常をきたす「状態」を示す言葉である。

 ハ行を発症して競走中止になったケースはもちろんほかにもあり、最近では、今年1月28日の白富士ステークスでのサトノフラッグがそうだった。

 ただ、「ハ行」というと、数えたわけではないのだが、感覚的には、「ハ行で競走中止」より「ハ行で出走取消」のほうが一般的だと思われる。

 今年のドバイターフのドウデュースも、昨年の香港マイルのサリオスもそうだったし、国内のレースでもときおり見受けられる。

 ハ行の原因に関しては、これも私個人の感覚というか印象では、はっきりこれと断定できないまま終わるケースのほうが多いように思う。「どこそこを痛がっていた」というところまではわかっても、いわゆる筋肉痛のようなものだと、痛みの原因や誘因を特定するのは困難だろう。もちろん、以前腱を痛めたとか、既往症がある場合は別ではあるが。

 ハ行して、原因がわからないままでも、歩様が元に戻れば、「治ったんだからいいじゃないか」と受け止めないと、次に向かうことができなくなってしまう。人間のスポーツ選手と同じで、競走馬は、どこかに不安があったり、痛みの出やすい部位があったりして当たり前とも言える。痛みが出た(と思われる)部位のケアを入念に行いながら、トレーニングをしていくしかない。

 といった大前提があるなかで、タイトルホルダーは、今週中に美浦トレセン内の診療所で精密検査を受けることが明らかになった。水曜日にエックス線、本稿がアップされる木曜日にエコー検査を受けるという。

 それで原因が特定されるかどうかわからないが、ここまで正確を期すことが、GIで大本命になったスターホースと陣営の責任、ということなのだろう。

 ともかく、大事に至らなくてよかった。栗田徹調教師の「最悪の事態は避けられました」という言葉が救いである。

 ラウンジと機内で半分ほど書き、あとは都内の自宅兼事務所で書いている。羽田に着くまでに終わらせるつもりだったのだが、機内誌の「間違い探し」が思いのほか難しく、時間がかかってしまった。往路と帰路で月を跨いだので、新千歳行きの便では4月号、帰りの羽田行きの便では5月号の問題を解いたのだが、どちらも7つのうち5つまでしか間違いを見つけられず、歯噛みしながら答えを見た。負け惜しみを言うようだが、出題者の癖なのか、描かれている動物の尻尾の角度だとか、縞模様の入り方など、細かなところを変えすぎなのだ。だから、答えがわかっても「なんでこんなところに気づかなかったんだろう」というお手上げ感が、あまりない。

 それはさておき、4月号も5月号も、浅田次郎さんのエッセイは面白かった。

 若手騎手が6人まとめて騎乗停止になった。うち5人が女性騎手で、開催日にスマホを使ったからだという。これは、酔って暴力を振るうやつがいるから酒が悪いと言い切れないのと一緒で、スマホが悪いわけではない。もっと言うと、彼らがスマホを使うこと自体が悪いわけではない。むしろ、SNSなどでの積極的な発信は、ファンの裾野をひろげながら、競馬をより身近に感じさせるなど、プラス面は大きい。

 ただ、ルール違反に関しては、彼らが考えているよりずっと厳格にとらえている人がたくさんいる。特に、競馬は、人様の金が絡むだけに「公正」であることが最大のテーマとなる。これを機に、評価を一変させる関係者もいるはずだ。同じくらいの腕なら、ルール違反をした騎手と、していない騎手のどちらを起用するかは言わずもがなだろう。

 もちろん、笑って済ませる人もいるだろうし、時間が経って、その後の頑張りが認められれば、今は厳しく接している人の態度もやわらぐだろう。

 30日間(開催10日間)の騎乗停止は長い。その間に、今がチャンスとばかりに勝ち鞍を伸ばすほかの若手が出てくるか。6人が乗れない5週のうち3週が、減量騎手の騎乗機会の増える3場開催である。頑張ってほしい騎手の顔が、何人か浮かぶ。もともと決まったパイを奪い合っているのだから、お手馬を奪うのは申し訳ないなどとは考えず、プロとして、積極的な姿勢を見せてほしい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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