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【師弟対談】「日本競馬全体の発展のためなら、僕は協力を惜しまない」──大井留学を終えて/古川奈穂騎手×矢作芳人調教師

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  • 2023年07月16日(日) 18時02分
kisyuikusei

▲矢作芳人調教師(左)と古川奈穂騎手(右)による師弟対談(提供:矢作芳人調教師)


史上初の試みとなったJRAと地方競馬ジョッキーの“期間限定トレード”。古川奈穂騎手(JRA)、吉井章騎手(大井)ともに調教研修を終えたいま、師匠はその成果をどう感じているのでしょうか。

前回お届けした、吉井章騎手と松浦裕之調教師の師弟対談につづき、古川奈穂騎手と矢作芳人調教師の対談をお届けします。

本対談が、この短期連載の最終回の企画。矢作調教師が愛弟子へ、そして未来を担うジョッキーたちへ、熱く伝えたいメッセージとは?

(取材・構成=不破由妃子)

「大したもんだなと」矢作師が感じた古川奈穂騎手の気持ちの強さ


──大井競馬での3週間にわたる修行を終え、中央競馬のレースに復帰して4週間。まずは矢作先生にお聞きしたいのですが、北海道で再会されて、奈穂ジョッキーの顔つき、仕事ぶり、騎乗ぶりなど、変化を感じるところはありますか?

矢作 「変わったね」という答えを期待されているんでしょうけど(笑)、実際はそんなに大きく変わったところはないですよ。ただ、身を以て経験したことが間違いなく生きている。それは感じます。

──周囲の方の反応は?

古川 大井から直接、北海道に入ったんですが、ほかの厩舎の方からも「大井でいっぱい乗ってきたんだってね」と声を掛けていただいて。「どうだった?」から始まり、馬乗りの深い話なども聞かせていただく機会もあって、改めていい経験ができたな、大井に行ってよかったなと思っているところです。

──さて、今回のトレードですが、コロナ禍になる前から企画されていたと矢作先生から伺いました。奈穂ジョッキーは、そういった計画があることをどんなタイミングで知ったのですか?

古川 競馬学校生の頃から、「地方の競馬場に行って、たくさんの馬に乗る機会を作る」というご提案はいただいていました。

矢作 ほとんど乗馬経験がないままにこの世界に入ってきたことはわかっていたからね。いつかはそういう経験をしてほしいというのは、当時から伝えてたよな。

古川 はい。「中央に比べると大変なんだよ」という話は聞いていましたが、競馬学校生の頃はもちろん、デビューしてからも、実際に地方競馬でどういう調教を行っているのか、想像することすらできませんでした。

 今回、実際に体験させていただいたことで、地方のジョッキーのすごさというものを改めて感じることができましたね。ただ、競馬場で調教をするということ、中央より圧倒的に調教頭数が多いことなど、行く前はちょっと不安もありましたが…。

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▲「行く前はちょっと不安も…」(C)netkeiba.com


矢作 奈穂が“新しいもの好き”でよかったよ。いろんな経験をしてみたいという好奇心が一番大事だからね。そういう気持ちを持っている子だというのは、最初からわかっていた。まぁ、単なる“新しいもの好き”のような気もするけど(笑)。

──軽くディスりが入りました(笑)。

矢作 いつもディスってますからね(笑)。でもね、奈穂は全然へこたれない。この前も、レース後に検量室で奈穂を怒っていたら、関東の調教師と調教助手に「もう少し優しくしてあげて」って言われました(笑)。

古川 私への言い方は、そんなに厳しくないような…。

矢作 そう思ってくれてるならよかった。じゃあもっと厳しくしてもいいんだな(笑)。

古川 怒られたとき、自分ができなかったことに対する悔しさみたいなものはありますけど、先生が指摘してくださることは、自分でも自覚のあることばかりなので。へこたれる以前に、反省のほうが大きいです。

──「怒られている」という状況よりも、もっと本質的なものを見ているからこそ、へこたれない。奈穂ジョッキー、強いですね。

矢作 大井にいるあいだも、定期的に連絡を取ったり、俺が大井に行ったときは直接話したりしたけど、奈穂は辛さを見せないからね。正直、もう少し辛そうにしているんじゃないかと思ったんだけど…。そういう点では、大したもんだなと思いますよ。まぁ大井の人たちは優しいから。メンタル的には助けられたところもあっただろうね。

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▲調教にも笑顔で取り組む奈穂騎手(C)netkeiba.com


過酷な大井での日々も──「中央にいたら経験できないことを経験した、というだけでも“勝ち”」


古川 本当にみなさんによくしていただきました。ただ、2時半から8時半くらいまでずっと馬に乗るというサイクルだったので、最初はやっぱりしんどかったです。

──6時間、馬に乗りっ放し!

古川 20分おきに調教の番組を組んでいたので、最大で1日18頭に乗せていただいて。最初はホントに時間もキツキツだったので、ずっと乗りっ放しだったんです。

 でも、そうすると最後のほうは水分やエネルギーが足りなくなってきて…。「私、やっていけるのかな?」と不安になったりもしたんですけど、次の日から「すみません!」と言って途中で水分を摂りに行ったり、ちょっとゼリー飲料をお腹に入れたりして。そうしたら、最後まで体力が持つようになりました。今さらですが、水分補給とエネルギー補給の大切さを実感しました。

矢作 さすがに18頭が限界だろうな。ただ、あくまで大井の最大頭数であって、地方の小さい競馬場に行けば、毎日20頭以上、調教に乗っているジョッキーも当たり前にいる。とはいえ、奈穂にとっては初めての経験だったわけで、心身ともに鍛えられたと思うよ。

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矢作芳人
1961年3月20日、東京都生まれ。父は大井競馬の元調教師矢作和人。オーストラリアでの修行後、厩務員、調教助手を経て2005年に厩舎を開業。2010年に朝日杯FSをグランプリボスで制しGI初制覇。2020年にコントレイルで牡馬三冠、2021年にはブリーダーズカップで管理馬2頭(ラヴズオンリーユーとマルシュロレーヌ)が勝利するという快挙を成し遂げた。

松浦裕之
1971年10月22日、東京都生まれ。父は大井競馬の元調教師松浦備。1993年に騎手としてデビュー後、2006年に調教師へ転身。2007年に東京記念をウエノマルクンで制し、重賞初制覇。2022年にはキャリアハイタイとなる年間36勝を記録した。

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