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WBCとドバイワールドカップ

  • 2023年03月16日(木) 12時00分
 ワールドベースボールクラシック(WBC)たけなわである。本稿がアップされる16日、木曜日の午後7時から、侍ジャパン対イタリアの準々決勝が行われる。

 ヨーロッパ諸国で野球はサッカーほど盛んではないが、今回のイタリア代表のほとんどは、アメリカでプレーするメジャーリーガーとマイナーリーガー、つまり、イタリア系アメリカ人だ。登録メンバーに現役メジャーリーガーが8人いるほか、今季の所属が決まっていないだけの「実質的メジャーリーガー」と言えるメジャー経験者も複数いる。大谷翔平選手のチームメイトのデビッド・フレッチャー選手をはじめ、日本から見ると厄介なプレーヤーばかりだ。

 マイク・ピアッツァ監督は、現役時代、野茂英雄さんとバッテリーを組んでいたことで知られている。

 私は、野茂さんがメジャー入りした1995年の春、サンディエゴでピアッツァ監督と少しだけ話したことがある。武豊騎手がスキーキャプテンでケンタッキーダービーに参戦した帰途、彼と親交のある野茂さんを訪ねたのだった。ピアッツァ監督と握手をした私は、コンクリから突き出た鉄骨を握ったかのような感触に驚かされた。腕相撲で、強い相手と手を合わせた瞬間「負ける」とわかるあの感覚を、さらに揺るぎなくした感じだ。鋼の肉体とクレバーな頭脳を持つジェントルマンで、話しながら、伏目がちに、静かに微笑む姿が印象的だった。

 イタリアは簡単な相手ではないが、侍ジャパンには頑張ってほしい。

 毎回、WBCは、ドバイワールドカップと近い時期に開催される。2009年、WBC第2回大会で日本が連覇を果たしたとき、私はドバイにいたので、感動的瞬間をライブで見ることはできなかった。

 今年は、ドバイ取材への出発とWBCの決勝が同じ日になってしまった。が、決勝は日本時間の朝8時からで、フライトは夜遅い時間だ。願わくは、侍ジャパン優勝の歓喜の瞬間を見届けてから出かけたい。

 そのドバイワールドカップの出走予定馬がドバイレーシングクラブより発表された。何と、全14頭のうち8頭が日本馬だ。日本馬の占有率は約57パーセント。パンサラッサが制したサウジカップは、13頭中6頭が日本馬だったから、約46パーセント。

 海外で、これほど「日本馬だらけ」のレースが行われるのは史上初、と言いたいところだが、そうではない。おそらく、1909(明治42)年の日露大競馬会以来、ということになる。ロシアのウラジオストックで開催された日露大競馬会には50頭ほどの日本馬が参加し、6日間にわたってレースが行われた。そこでは日本産馬のみによるレースも行われていた。

 しかし、その後ほどなく海外で、またも「日本馬だらけ」のレースが行われていた可能性もある。1913(大正2)年、日本馬と騎手が旧満州に遠征して競馬が行われた、という記録もあるのだ。

 なので、今年のドバイワールドカップの日本馬占有率は、「旧満州遠征翌年の1914年以降」で最高、としておけば間違いなさそうだ。が、それだといささかわかりづらい。だからといって、よくある「1984年のグレード制導入以降」で最高、とすると、1914年から84年までの70年も最高だったのに、ちょっともったいない感じがする。

 既述の旧満州遠征以来となる日本馬の海外遠征は、1958年、主戦騎手の保田隆芳さんとともにアメリカに渡ったハクチカラによるものだ。これは「日本馬による『戦後初』の海外遠征」と記されることが多い。

 それに倣い、海外レースにおける日本馬の占有率57パーセントは「戦後最高」とする手もある。が、「戦後」という表現も、特に若い世代にはしっくり来ないかもしれない。

「JRAが発足した1954年以降」でもいいが、グレード制導入の1984年より30年遡っただけで、まだ40年もムダにしている。

 旧満州遠征が行われた1914年に近いところでは、「競馬法が制定された1923年以降」というのもある。しかし、これは日本の競馬史においては非常に重要な節目ではあるが、馬やレースに関することの区切りとする性質ではないような気がする。

 何か、適当な「○○以降」や「××後」はないものか。

 それはいいとして、どこかの国に日本馬が2頭で遠征し、それらが出たレースが3頭立てになり、占有率が約67パーセントだった……などという記録を見逃していないだろうか。だんだん不安になってきた。

 さて、先日、再度胃カメラを入れて十二指腸のポリープ群の一部を切り取り、病理検査に出した。結果は、ドバイから帰国した翌日に出る。

 医師の表情や口調からして心配ないような気がしている。もし、よくない結果だったとしても、ネタにできるのがこの仕事のいいところだ。

 東京では桜(ソメイヨシノ)が開花した。平年より10日早く、2020年、21年と並び、統計を取りはじめてから最も早い開花だという。東京で七分か八分咲きになる見ごろもドバイと重なることが多かったのだが、今年は花見も楽しんでから出発できそうだ。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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