すっかり旧聞に属する話ではあるが、今年のホッカイドウ競馬は実況担当者が昨年とは違う。地方競馬という興行であっても、社会的には公的機関。そのため昨今の情勢では随意契約がしにくくなっているらしく、実況担当者という専門職であっても入札を経るという方式が取り入れられると、そこに変化が生じる可能性があるようなのだ。
そうなると「○○競馬場といえば、あのアナウンサー」という、ある意味普通に捉えていることも、今後は当たり前にならないのかも。競馬をエンターテイメントとして考えるのならば、ドライな入札という方式はそぐわないような気はするのだが……。
しかしながら、そのおかげで活躍の場を増やした人もいる。今年からホッカイドウ競馬の実況に参戦することになった、西田茂弘アナウンサーである。
西田さんは、FMふくやまの「うまうまサウンドステーション」という番組内でレース実況をしていたアナウンサー。番組自体は終了してしまったが、その後は福山競馬場内の実況放送に活動を移した。そして今年からは古川浩アナウンサーとともに、ホッカイドウ競馬のレース実況と競馬番組の進行役を務めることになったのである。
「3月頃に古川さんからいきなり電話があって、もしかしたら頼むかも、と言われました。それから本当にホッカイドウ競馬で実況することになって、今に至るという感じです」
しかし西田さんは広島県福山市在住。交通費とかかなり大変だと思うのだが……。
「そうですね。今回は広島空港から羽田空港乗換で来ましたから……。でもこの仕事をするために、FMふくやまで担当していた番組を降りさせてもらったんですよね」
競馬好きが高じて福山競馬の実況を担当することになった西田さんだから、今の状況は歓迎すべきことなのかも。とはいえ、福山競馬は日曜と月曜が開催日になることも多いから、火曜日に門別競馬場まで移動するのはけっこう大変だ。
「古川さんに千歳空港まで迎えに来ていただいて、競馬場から宿までの移動手段も古川さん頼り。木曜日の夜は現地の新聞記者さんに札幌まで送ってもらっています。みなさんにお世話になりっぱなしですね」
と、恐縮する西田さん。でも、そのお礼はしっかりと仕事で返している。
ところで気になるのは、双眼鏡なしでもなんとかなりそうな広さの福山競馬場に慣れた体が、1周1600mの門別競馬場にすぐ順応できたのか、ということ。
「それが、門別では練習なしでいきなり本番だったんですよ。最初の頃は、いつもの感覚だと『そろそろ3コーナー』というタイミングなのに、まだ向正面の真ん中くらいという門別の広さに戸惑いました。それと、夕陽が4コーナーのうしろに来ると本当に勝負服どころか帽子の色もわからなくなるのが大変で。最後の直線も長いですし、福山とは実況の組み立てという点から違います。勉強になります」
濃霧で向正面がほとんど見えないという日もあったし、厳しい条件の下での実況業務は西田さんのスキルアップにつながっていることだろう。しかし、古川アナウンサーは岩手も含めて実況業務が週6日、西田さんは福山を含めて同じく週4〜5日というのは、なんと濃密な日々なんでしょう!
「ぼくが門別競馬場でお世話になった最初のころ、福山競馬場で門別競馬を場外発売したときにお客さんが実況放送を聞いて、『シゲちゃん(西田さんのこと)が実況しよるぞ』『きのうここでしゃべっとったのに、北海道におるわけがなかろう』『いや、でもこれはシゲちゃんじゃ』というような会話が、お客さんの間であったという話を聞きました」
地方競馬の実況というのは、その地区その地区である程度決まっているという先入観があるだろうから、福山の熱心なファンがすぐに【シゲちゃん=門別】とならなかったのは無理もない話なのかも。実際私も、「西田さんっぽい人が実況しとるなあ」と6月初旬頃まで思っていたくらいだから(笑)。
でも、門別での「西田節」はすっかり浸透してきた感じ。スケジュール的には厳しいけれど、西田茂弘アナウンサーは充実の秋を迎えているようだ。