南関東の競馬は、各競馬場に所属する騎手が実戦では4つの競馬場をまたにかけて騎乗できるシステム。レースの数は多いけれどもJRAのように同時開催というわけではないから、月曜から金曜までだと1人あたり最大で40レースに騎乗できることになる(南関東は1日の騎乗数上限が8レース)。
そういう状況なので、若手騎手が飛躍のきっかけをつかむのはなかなか難しい様子。さらに冬期間は、この時期に開催していない北海道や岩手、金沢からリーディング上位の騎手が期間限定でやってくるから、さらに激戦区になるのが最近の情勢だ。
内田利雄騎手
「冬はいい騎手がたくさん来るから混んじゃうんですよねえ。だからこんどからは、夏の間に来ることにしようかな?」とは、南関東での期間限定騎乗の扉を開いた大功労者、内田利雄騎手。
「僕が最初に南関東に来たときより、騎手間の競争が厳しくなっている気がしますね」
百戦錬磨の内田さんでもそう感じるのだから、南関東でリーディング争いをするというのは相当にむずかしいことなのだろう。
「でも、刺激になるから楽しいですよ」というのは、金沢所属の吉原寛人騎手。南関東での期間限定騎乗は今回で2回目だ。
吉原寛人騎手
「いやあ、去年は右も左もわからなくって、自分自身に余裕が全然なかったですよ。だからあっという間に1日が終わるという感じで、遊びにも行けなかったですもん。それが今回は去年より感覚がつかめているから仕事に余裕があります。それぞれの競馬場でも馬場の様子とかを考えながら乗れるようにもなっていますね」
金沢でリーディングを維持しつづけるためには、騎手という仕事に対してのモチベーションを持ち続けることが大切だろう。激戦区の競馬での体験が、次のステップへの糧になることを期待せずにはいられない。
吉留孝司騎手
そんな生存競争が厳しい南関東を新たな仕事の地として選んだのが、荒尾競馬から移籍した吉留孝司騎手と杉村一樹騎手。ちなみに吉留騎手は浦和所属、杉村騎手は川崎所属となっている。
「来る前はあまり乗れないのかなと思っていたんですが、意外と仕事はありますね」と、吉留騎手。荒尾からは単身赴任の形で浦和市民となっているそうだが、まだ荒尾には一度も帰っていないそうだ。
「最初が肝心、という部分もありますし。でもレースでの騎乗がないときは時間が余ってね……。どこに何があるのかとか、まだよくわかっていないですし(笑)。調教にももっと乗りたいと思っているんですけれど、ほかの人(調教専門厩務員など)の仕事を取る形になってしまうのもよくないのかなと思って」
現状は少しずつ様子を見ながら、という感じで浦和競馬の野田トレセンを中心とする日々過ごしているらしい。
「左回りはもう慣れましたね。でも南関東は馬と馬との間隔が狭くて。インコースにいると外からプレッシャーがけっこうかかりますよ。『これしか(間隔が)ないのに来るんかあ〜』という感じで。やっぱりそこで引いたらダメなんですよね?」
そこで気後れしたらあっという間に位置取りが悪くなるのが南関東の競馬。ケガしない程度に強気で押すことをオススメしておきました。
杉村一樹騎手
「僕も、来る前はけっこうハードルが高いのかなと思っていたんですけれど、意外とそんな感じはないですね。厩舎のみなさんも良くしてくれて、食事とかにも誘ってくれますし」
とは、杉村一樹騎手。1月下旬から騎乗を開始して、開催日はほとんど皆勤賞で競馬場にいる売れっ子ぶりだ。
「でも今はお試し期間でしょうから。その間にきちんと結果を出さないと見捨てられてしまいますよ」
杉村騎手が所属するのは、南関東でリーディングを獲得したこともある池田孝厩舎。同厩舎から出走する多くの馬に騎乗しているからこそのプレッシャーもあるのだろう。それでもその緊張感は、杉村騎手にとっていい方向に働いているように感じられた。
荒尾からはもうひとり、西村栄喜騎手が船橋競馬所属としてやってくる(3月から)。激戦区がより激戦区になることは、南関東の競馬にとっては悪くないことだろう。しかし南関東でデビューした若手騎手にとっては、競争がさらに厳しくなることは確か。ぜひとも「その情勢には負けないぞ」という気持ちを表に見せて、南関東の競馬が盛り上がることにつなげていってほしいと願っている。