“やりたくてもやれなかった” 春からひと皮むけたパシフィックギャル/トレセン発秘
◆秋華賞の3連単穴候補に
今週の月曜(13日)。開門(午前4時30分)直後の美浦トレセンで国枝栄調教師と話していると、馬場から上がってきた椎本助手が目を丸くして当方に声を掛けてきた。
「今日は開催日ですよ。いや〜熱心ですねぇ。さすがです」
否定はしなかった。時に褒められるのも悪くないからだ。だが、幸か不幸か彼は何も分かっちゃいない。我々もすべき仕事があるからこそ、開催日の早朝に起きているのだ。熱心さとは少し違う。宴会野郎とて社会人。やらなきゃならない“事情”があるだけだ。
一方、サラブレッドには時に“やりたくてもやれない”逆パターンが発生する。今週の秋華賞に出走するパシフィックギャルの上半期は、まさにその典型だ。
「なぜ、この馬だけずっと坂路主体の調教なのかって? 長い付き合いなんだから、皆まで言わなくとも分かるだろ」
管理する手塚貴久調教師に今春こう言われて周辺取材を行ったところ、慢性の脚部不安を抱えていることが判明した。トラックでは脚元への負担が大きすぎて、追い切ることができないという。ゆえに「これまで満足な状態で送り出したことが一度もない」は手塚師の口癖でもあった。
それがどうしたことか。今秋帰厩するなり、同馬はウッドチップコースでさっそうと乗り込みを開始。坂路での追い切りは2週前(4ハロン56.6秒)1本のみという変わりよう。もしや運命の大転換期を迎えたのか? この問いに答えてくれたのが、こわもて(失礼)と的確なジャッジで名をとどろかす平塚助手だ。
「帰厩当初は本当に脚元の状態が良くて“これなら”という感じだったんだ。ただ、2週前からやっぱり脚元にダメージがきてね、その週は元通り坂路に入れざるを得なかった。でもやってみると坂路のほうが逆に痛くなるみたいで…。で、先週から再びチップに戻した次第。その意味で万全じゃないよ。ただ、以前に比べたら今回は断然納得いく仕上げであるのも確か。能力だけで走ってきた馬が、少なからず変わる可能性が出てきたってこと」
やりたくてもできなかった馬が初めて経験した“やらなきゃならない事情”。ひと皮むけたパシフィックギャルを、今週GIの3連単穴候補に加えておきたい。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)