(撮影:高橋正和)
ホッコータルマエの強さを際立たせた道中のワンシーン
単勝元返しという断然人気のホッコータルマエが、今回も盤石の強さを見せた。2着のカゼノコとの着差は3/4馬身だが着差以上の強さ。昨年のこのレースでもムスカテールに1/2馬身まで迫られたときに、幸騎手は「2着馬が来たらもう1回反応しているので、そこからはもう差は縮まらなかったと思います」とコメントしていたが、今回も同じようなレースぶり。直線半ばでカゼノコが直後に迫ったが、その脚色を測りながら、幸騎手は一杯には追っていないにもかかわらず、さらに一段ギアを上げたような感じでぐいっと伸びた。仮にゴールがあと数百メートル伸びても交わされない、むしろホッコータルマエがもう一度突き放していただろうと思わせるレース内容だった。
さらに道中でもホッコータルマエの強さを際立たせるシーンがあった。スタートして最初の3コーナーの入口で、内外から寄られて狭くなり、5番手まで位置どりを下げた。それでホッコータルマエは怒るようなしぐさを見せたという。それでもスタンド前で外に持ち出すとすぐに落ち着いた。そして向正面半ば過ぎ、肩ムチを一発入れただけで反応し、直線を向いたところで先に抜け出していたサミットストーンをとらえようかというところで勝負あった。勝ちタイムの2分16秒9は昨年より3秒1も遅く、過去10年でももっとも遅いものとなったが、これは全日本2歳優駿の回顧でも触れたとおり、その開催の前に砂を入れ替えたことによるもの。年が明けても川崎コースは全体的にタイムがかなりかかっている。
現状、ダート中長距離の古馬戦線はホッコータルマエとコパノリッキーの2強だが、コパノリッキーが出遅れたり馬群に包まれるなどすると、ときにレースをやめてしまうような危うさがあるのに対して、ホッコータルマエは逃げても中団からでもレースができるし、多少の不利があってもほとんど動じることがない。それこそがホッコータルマエが安定して結果を残せる強さなのだろう。西浦調教師は、東京大賞典後のインタビューでは、昨年同様に川崎記念とフェブラリーSを使ってドバイと話していたが、今回のレース後の話では、ドバイワールドCが目標ではあるものの、フェブラリーSを使うかどうかは、様子を見ながらということになったようだ。言われているように使いながら調子を上げてくるタイプとはいえ、あまり無理をしない状態でドバイに遠征させたほうがいいのではないかと思う。
2着にはカゼノコ。ジャパンダートダービーを勝ったときもスタート直後に両脇から挟まれるなどして最後方からとなったが、今回もタイミングが合わないような感じでスタート直後は最後方からだった。川崎のこの距離では、1周目のスタンド前でペースが落ちる場合がほとんどで、今回も残り1600〜1400m(3〜4コーナー中間からゴール前200mまで)のところのラップが13秒9に落ちている。カゼノコは、このペースが落ちたところで無理なくホッコータルマエの直後につけた。そして上り3Fのタイムは、ホッコータルマエの39秒4よりも速いメンバー中最速の39秒2。この馬は道中流れが緩んで、ヨーイドンの競馬で力を発揮するタイプのようだ。地方のダートグレードの長距離戦、たとえばダイオライト記念(船橋2400m)、白山大賞典(金沢2100m)、名古屋グランプリ(名古屋2500m)あたりではさらに強いレースをしそうに思える。ちょっと前のハタノヴァンクールに似たタイプといえそうだ。逆に中央ダートの1800〜2000mあたりの重賞では、平均ペースでレースが流れて道中でペースが緩むことが少ないので苦戦するように思う。それを考えると、チャンピオンズCでホッコータルマエからコンマ6秒差の7着というのは、むしろ力があることを示していたと言っていいだろう。
地方期待の2頭は、サミットストーン3着、ハッピースプリント4着と、東京大賞典と同じ着順。サミットストーンはダッシュを利かせて逃げる態勢になったが、最初の3コーナー入口のあたりでペースを落としたところでランフォルセに来られて2番手に控えざるをえなくなった。そして向正面の中間手前、トーセンアレスが迫って来たところでムチを一発入れて仕掛けていった。ホッコータルマエを負かすには、先に抜け出してどこまで粘れるかという展開しかないと考えたのだろう。そのとおり、直線を向くところまでは先頭だったが、並ばれてからの地力の差は明らかだった。サミットストーンの次走には地元船橋のダイオライト記念を予定しているとのこと。ホッコータルマエはドバイ、コパノリッキーは距離適性的なことで不在になるのはほぼ間違いなく、それ以外の相手なら浦和記念に続いてのJpnII勝ちも期待できそうだ。ただ前述のとおり、もしカゼノコが出てくれば手強い相手になりそうだが。
1番枠に入ったハッピースプリントは、小回りの川崎コースの難しさを象徴するような感じでの4着だった。スタート後は押してサミットストーンの2番手につけたが、ランフォルセ、ムスカテール、トーセンアレスらに外から一気に被せられる形になり、5番手まで位置取りを下げた。同じような位置の外にいたのがホッコータルマエだ。しかし勝負どころの2周目3コーナーでは、ラチ沿いにいたことで行き場をなくして仕掛けるタイミングを失ってしまった。川崎コースでラチ沿いを回るのはギャンブル的なところがあって、今回のハッピースプリントのように完全に包まれて終わってしまうこともあれば、その反面、コーナーがきついために4コーナーで前の馬たちが外に振られて視界が開け、最短距離を通って直線で一気に抜け出して快勝というパターンもある。2周目の3コーナーからを具体的に振り返ってみると、外からホッコータルマエ、続いてカゼノコが一気にまくってきて、すぐ前には追走一杯のムスカテールがいてということで、ハッピースプリントは仕掛けて行こうにも行き場がなかった。ようやく勢いがついたのは直線半ば、すぐ前で勢いの鈍ったトーセンアレスの外に持ち出してから。その時点では、すでに抜け出していた1〜3着馬とは5馬身ほども差がついていて、時すでに遅し。川崎コースで内枠からラチ沿いを追走したときの不運をすべて背負ったというようなレースだった。
話は逸れるが、川崎記念の前日、佐々木竹見カップ・ジョッキーズグランプリで騎乗していた高知の赤岡騎手と、川崎コースの難しさについてたまたま話をしていた。直線が400mもある大井の外回りなどを除き、地方競馬のほとんどのコースでは勝負どころが3〜4コーナーになるので、特にそれが普段あまり乗り慣れていない競馬場だとやはり難しいのだそうだ。中央の大きなコースなら勝負どころは直線を向いてからなので、たとえ馬群が密集していても余裕があると。地方競馬の中でも極端にコーナーがきつい高崎や福山が今はもうなくなってしまったので、そういう意味では川崎の4コーナーはもしかして日本でいちばんむずかしいコーナーなのかもしれない。さらに地方競馬の場合、左回りのコースは南関東3場(浦和、船橋、川崎)と盛岡しかないので、それ以外の地区から交流レースなどで乗りに来る騎手にとっては、やはり左回りは乗りづらい面はあるとのこと。そういう話を前日に聞いていたので、まさにハッピースプリントはその難しいパターンに嵌ってしまったなあと思ったのだった。もちろん吉原騎手は南関東で期間限定騎乗を何年も続けているので、川崎コースが慣れていないということはないのだが。
そういうわけでハッピースプリントは前3頭から離された4着という結果も、残念ではあるものの、陣営はそれほど悲観しているような様子でもなかった。加えて森下調教師は、この距離で一線級との対戦では、まだちょっと力不足かなあとも話していた。適距離はマイル前後ではないかと。次走については、フェブラリーSが選択肢として挙げられている。中央の広いコースでどんなレースをするのか、もし出走するとなれば楽しみではある。