(撮影:武田 明彦)
素晴らしかった鞍上の判断
過去10年で地方馬が3着以内に入ったのは、2010年2着のブルーラッド(川崎)のみと、地方馬が苦戦しているレースではあるが、今年は大井から遠征のユーロビートが6馬身差の圧勝。マーキュリーCでの地方馬の勝利は、1998年のメイセイオペラ以来17年ぶりのこととなった。
地方馬が勝つことができた要因はいくつかある。中央勢で重賞タイトルがあるのは、8歳のソリタリーキングに、メイショウコロンボの2頭だけで、比較的メンバーに恵まれたこと。マーキュリーCが盛岡開催となった2000年以降、勝ちタイムがもっとも遅い2分7秒8という決着だったこと。そして何よりペースが極端に落ちたところで後方から一気に前をとらえに行った鞍上の判断は素晴らしかった。
メイショウコロンボがハナを取ったのは予想通り。最初の3Fは36秒7だったが、4ハロン目からペースが極端に落ちて1000m通過は64秒5。ちなみに昨年のこのレースは、馬場自体が速いこともあったが、逃げた地元のコミュニティが1000m通過59秒6というハイペースで飛ばし、2分1秒9というレコード決着となったのとは対照的だ(その後JBCクラシックでコパノリッキーが2分0秒8に更新)。
外枠もあってスタート後は後方3番手からの追走だったユーロビートだが、残り1200mの標識を過ぎて向正面に入ったあたりから一気に動き、1000mの標識を過ぎたところでメイショウコロンボをとらえた。一旦はユーロビートが3/4馬身ほど前に出る場面もあったが、すぐにメイショウコロンボは内からハナを奪い返した。ここで息を入れることができたユーロビートと、慌てて脚を使ってしまった1番人気のメイショウコロンボと、これが勝負の明暗を分けるひとつのポイントになった。
直線を向いて追い出されるとそのまま突き抜けたユーロビートに対して、これまでマイペースの逃げに持ち込んで結果を残してきたメイショウコロンボは、途中でペースを乱されたことで直線伸びる脚は残っていなかった。
それにしても盛岡のダートで行われるこのレースやマイルチャンピオンシップ南部杯では、勝ち馬が実力以上に差をつけての圧勝というケースがしばしば見られ、今回も、これがダートグレード初制覇で、必ずしも力が抜けていたわけではないユーロビートが2着馬をちぎって6馬身差の圧勝となった。こうした差は何が要因でついてしまうのだろう。馬場の適性なのか、それとも地方競馬にはめずらしい直線の坂なのか。
そしてマーキュリーCの傾向である、過去に好走した高齢のリピーターの好走というのもそのとおりの結果となり、一昨年の覇者で8歳のソリタリーキングが58キロを背負いながら2着に入った。
3着に入ったトウショウフリークの好走も1年以上ぶり。過去には名古屋グランプリ(2500m)、ダイオライト記念(2400m)で2着に入り、JpnIの川崎記念(2100m)でもホッコータルマエの3着があるように、長距離のゆったりした流れで結果を残している。ただこの馬は、地方のダートグレードでは賞金的に除外対象になることが多く、そういう意味では今回は運もあった。
とにかく今回の主役は、スローを読んでレースの中間点より前で早目に一気に仕掛けた吉原寛人騎手ということに尽きる。金沢所属というのはもはや単なる名目上のもので、近年の全国区での活躍はご存知のとおり。それでもダートグレードにはこれまで縁がなく、いよいよと思われた昨年のジャパンダートダービーは、南関東三冠、JpnIなど、いくつものタイトルをハナ差で逃していた。それだけに今回の勝利は、本人にとっては格別の喜びとなったことだろう。