ハープスター半妹リュラはやはり名牝王国最後の大物/吉田竜作マル秘週報
何より評価されたその賢さはベガから受け継がれたものなのかもしれない
欧米の競馬文化の王道と日本のそれはかなり異なる。その決定的な差は馬券を買う側=ファンを主体としたものが圧倒的に多いことだ。書店の競馬コーナーを見れば、目立つのは馬券攻略法といったたぐい。別にヨイショをするつもりはないが、公正をうたい、良い品質のレースを安定して提供するJRAがあってこそ、この独特の“文化”が根付いたわけだし、日本の競馬のスタイルはマニアックさを追求したい日本人の気質にもマッチしているのだろう。
春のPOG関連のイベントに参加した際に「松田博キュウ舎が解散した後、山口キュウ務員はどこのキュウ舎に行くのか」との質問を受けた。数多くのGI馬を担当した腕利きとはいえ、特定のキュウ務員の動向を気にするような質問は日本以外ではあり得ないのではないか? 競馬の売り上げに神経をとがらせているJRAだが、日本独特の“文化”が深く根を張っているのだから、そう神経質にならなくても…と個人的には楽観している。
さて、競馬ファンの多くがその名を知っている山口キュウ務員が現在担当している馬といえば、これまた多くのファンがご存じであろうハープスターの半妹リュラ(父ステイゴールド、母ヒストリックスター)。その動向が大いに注目されている血統馬はゲートに少し手間取り、最初の試験は不合格になってしまった。
「入キュウしてしばらくの間は(ゲートに)入っていたが、試験を受ける週になって少しゴネ始めてしまってな。試験でも寄っていかなくて…」(松田博調教師)
当コラムを長く読んでくれている読者なら察しがつくことだと思うが、こうなると難しいのが2歳牝馬。「牝馬だから怒れないし、粘り強く馬が納得するのを待つしかない」と松田博調教師も長期戦の覚悟を決めたのだが、その上を行ってしまったのがリュラの素質。先週木曜(24日)の試験では見事に修正し、クリアしてしまった。
もちろん、これには山口キュウ務員、試験の際に騎乗した中留助手の尽力もあったが、短期間で気持ちを切り替え、ゲートへの恐怖心を克服したのは、リュラの競走馬としての資質の高さ以外の何物でもない。
「自分からゲートへと歩を進めていったほど。ゲートの中でもおとなしかったし、入ることに納得してくれたんだろうな。スタートもウチの中では速い方だったし、動きも素軽かったよ」
何より評価されたその賢さは松田博キュウ舎ゆかりのベガから受け継がれたものなのかもしれない。
日曜(27日)には「坂路で(4ハロン)55秒あたり」の予定が53.8-13.4秒をマーク。調教ピッチも上がってきており、注目のデビューは4回京都開幕週(10月12日)の芝内2000メートルが有力視されている。
「本当は(ゲート試験)1回目で受かって阪神で使いたかったが、受からなかったんだから、まあ仕方がない。強いのがいるならいたでいいさ。こっちから避けることもないからな」という発言は松田博キュウ舎の過去の名馬の初陣の時と同じ性質のもの。このリュラがどれだけの可能性を秘めているかがおわかりだろう。
日本の競馬文化を広く発信するためには、マスメディアの力以上に、サラブレッドそのものの“強さ”が必要なのは言うまでもない。名伯楽の最後の薫陶を受けたリュラがいずれ世界に羽ばたくようなら…誰よりも雄弁に日本競馬の魅力を伝えてくれるはずだ。