中井騎手が、今回選んだトークテーマは「人生で影響を受けた人もしくはモノ」。迷わず出てきた答えが「ローレルベローチェ」でした。今年のシルクロードSで2着に好走し、GIの高松宮記念にも出走。人馬ともに初めてのGI挑戦となりました。「もし人だったら会いたくないですね(苦笑)」と、ひと癖もふた癖もあるタイプではあるそうですが、それ以上の魅力も感じていると言います。中井騎手とベローチェの秘話に迫ります。
(取材・文/大薮喬介)
トークテーマ:人生で影響を受けた人もしくはモノ
――今年は初めて北海道にフル参戦しましたが、いかがでしたか?
中井 滞在ですので、普段あまり関わっていない関東の厩舎に乗せていただいたのは、いい経験になりました。
――小野次郎厩舎の馬によく騎乗されていましたよね。
中井 そうなんです。10月の中山でキセキノムスメに騎乗させていただいて勝たせてもらったのですが、北海道の時からずっと攻め馬にも乗っていて、栗東に帰ってからも連絡を取っていたんです。あれこそ過程を楽しめたから、いい結果が出たんじゃないかと思います。
――それは、嬉しいですよね。普段と環境が違っていたわけですが、気を付けていたことはありますか?
中井 いつもはトレセンから競馬場に行くことで、競馬モードのスイッチが入るんですが、滞在だと毎日調整ルームにいるので、自分で気持ちを切り替えるように心がけていました。
――いつスイッチを入れるようにしていたんですか?
中井 僕の場合は金曜日の夜、サウナに入った時です。明日のレースのことを考えて、集中力を高めるようにしていました。
――なるほど。スイッチを入れたり、関東の厩舎の馬に騎乗されたり、いつもとは違う経験をしたのはよかったですよね。今年の北海道滞在は充実していたんじゃないですか?
中井 う〜ん、ローレルベローチェのために北海道に行ったというのもあるので、充実したとは言えないですよね。あっ、ベローチェの話が出たので、次のテーマは「人生で影響を受けた人もしくはモノ」でお願いします。
――中井ジョッキーといえば、ローレルベローチェですよね。今年はこのコンビで高松宮記念にも出走しました。2015年1月の500万で初めてコンビを組んだわけですが、騎乗するきっかけを教えていただけますか?
「人生で影響を受けた人もしくはモノ」のテーマではローレルベローチェの名前を挙げた中井裕二騎手
中井 競馬学校時代に、厩務員過程にいた飯田雄三先生の息子さんと出会って、その時から仲良くさせていただいているんです。その縁もあって、僕が乗り鞍が減っていた時期に「攻め馬から乗ってみてくれないか」と声をかけてくださって。
――最初にローレルベローチェに跨った時の印象はいかがでしたか?
中井 正直、ここまでの馬になるとは思っていませんでした。ホント、性格が難しくて(苦笑)。
――性格が難しいとは?
中井 もう我が強すぎて、もし人だったら会いたくないですね(苦笑)。でも、また会いたくなるような不思議なヤツなんです。もう自分を持ちすぎていて、ぶっとんでいるというか。逆にそれがカッコいいとすら思えるような馬なんです。
――馬鹿と天才は紙一重的な感じですかね(笑)。
中井 そうそう、そんな感じです。今の成績を残していなかったら、誰も相手にしないような(笑)。でも、そういうところも僕がベローチェを好きになったひとつのポイントなんですけどね。
――最初に乗った時の印象を聞かせていただけますか?
中井 ジョッキーって誰でもそうだと思うんですが、馬にこうさせたいという理想があるんです。でも、ベローチェは一切受け入れてくれなかったんですよね。
――人間の子供でいうと、皆が並んでいるのに、一人だけ並ばない感じですか?
中井 そうですね。それで先生が「もう好きにしなさい」と言うと、本当に好き勝手に行動してしまうタイプです。
――それだけ我が強かったら、中井ジョッキーもさぞかし悩んだでしょうね。
中井 そりゃあ、もう…。ただ、僕が競馬を楽しめるようなきっかけをくれたのは、間違いなくベローチェです。どうやって勝たせようではなくて、どうやって乗ろうとばかり考えたのがきっかけですから。
――まさに影響を与えた馬なんですね。能力を感じた瞬間はいつだったのでしょうか?
中井 芝に転向した時ですね。僕が乗るようになってからダートで2勝していたんですが、昨年の芦屋川特別(阪神芝1200m・1000万)で6着だった時です。あの時はベローチェの精神状態がよくないと攻め馬でも感じていて、自分たちの良いリズムで競馬をすることは、まだ難しいと思っていたんです。
――何もできないで終わると思っていたと。
中井 はい。本当にその中でひとつでも光るところがあればいいなと思っていたら、実際のレースで自分たちの形に持ち込めたんです。さすがに最後は一杯になって負けましたけど、「この状態でこれだけ走れるのか」って驚きました。これが、“これからよくなっていく馬”なのかもしれないと感じたんです。今でも鮮明に覚えていますが、6着だったのにすごく嬉しくて(笑)。きっと勝てなかったレースで、こんな気持ちになることは後にも先にもないと思います。
6着だったのにすごく嬉しくて(笑)。きっと勝てなかったレースで、こんな気持ちになることは後にも先にもないと思います
(文中敬称略、次回へつづく)