▲今週は松山騎手(右)と川須騎手(左)が、自身を成長させてくれた馬たちを紹介します!
6年間の連載に終止符を打つこととなった『キシュトーーク!』。フィナーレ企画「最後の大忘年会」、今回は「ジョッキーとしての成長に一役買ってくれた馬」の松山弘平騎手、川須栄彦騎手編です。アルアインで皐月賞を勝利し、メンバー初のGIジョッキーとなった松山騎手。同馬への思いや、“人前なのに抑え切れないほど涙が込み上げてきた”という衝撃のエピソードを語ります。(取材・文:不破由妃子)※高倉騎手は都合により欠席のため、個別取材を行いました。その様子は後日掲載させていただきます。
(前回のつづき)
「初めての重賞を地元の小倉で勝てたのは大きかった」
──この6年間を振り返って、「自身の成長に一役買ってくれた馬」、続いては川須騎手、お願いします!
川須 ん〜、1頭1頭真剣に向き合っているつもりなので、難しいなぁ。重賞を勝った馬はもちろんだけど、スーパー未勝利を勝てた馬、結局未勝利を勝たせてあげられなかった馬にもいろいろ教わったことはあるし…。
恭介 それはみんな同じだよ。でも、そのなかでもジョッキーとして意識を変えてくれた馬とか、「あの馬がいなかったら…」みたいな馬っているでしょ? たとえばレッドアリオンにしてもさ、一度ほかのジョッキーに手替わりして、川須の元に戻ってきたわけじゃない。そういうのってうれしくなかった?
川須 すごくうれしかった!
松山 GIへの意識をより強くさせてくれたのもレッドアリオンじゃないの?
川須 あ、それは間違いない。NHKマイルC(2013年)では、出遅れたけど直線だけで4着(勝ったマイネルホウオウからコンマ3秒差)まできてくれて。
恭介 めちゃめちゃ悔しかったんじゃない?
川須 うん。たしかにあのレースを経験したことで、ちょっと意識が変わったかもしれない。GIで人気馬(3番人気)に乗ったのも初めてだったし、結果が結果だったから、もっともっと巧くならないといけないなってすごく思った。あと、転機という意味では、やっぱり初めて重賞を勝たせてもらったエーシンジーライン(2012年・小倉大賞典)かな。
▲川須騎手の初重賞勝利となったエーシンジーラインでの小倉大賞典 (C)netkeiba.com
松山 2年目、3年目と、川須はポンポンといったからね。
川須 そうそう。2年目にたくさん勝たせてもらって、3年目は重賞を勝つことを目標にスタートして。早々に勝つことができたのは、やっぱり自信になった。初めての重賞を地元の小倉で勝てたっていうのも大きかったし。
優作 松ちゃんは? たくさんいるんじゃない?
松山 そうだなぁ、スマートギア、ドリームバレンチノ、コーリンベリー、ミッキーアイル、クルーガー、アルアイン…。自分にとって、転機と衝撃をもたらしたという意味では、ドリームバレンチノとミッキーアイルかな。ドリームバレンチノには、デビューした年から乗っていたので。
優作 松ちゃんとのコンビで9勝もしてるんだもんね!
松山 うん。落馬が続いてつらかった時期も、ずーっと乗せてもらっていた馬で。ドリームバレンチノのおかげでここまでこられたといっても過言ではないかもしれない。自分のなかでは、それくらい大きい存在だね。
▲「ドリームバレンチノのおかげでここまでこられた」と松山騎手(2013年シルクロードS優勝時、(C)netkeiba.com)
恭介 初めてGIで2着にきたのもドリームバレンチノでしょ?
松山 そう、高松宮記念(2013年)でね。でも、その秋に乗り替わりになったのは、当時の僕にとっては衝撃やった…。
優作 たしかスプリンターズS(6着)が最後だったんだっけ?
松山 うん。しかも、(スプリンターズSの次走、JBCスプリントから)乗り替わることを知らされたのは、スプリンターズSの前だったんだよね。当時はそこまで深く考えていなかったのもあるけど、GIの前に言われたことで、「えっ? そんなものなのかな」って。まだ若かったし、がむしゃらだったので、なんかすごく葛藤があったな。
恭介 ミッキーアイルは、騎乗したのは3戦だけど、その中身が濃かったよね(阪急杯1着、高松宮記念2着、スプリンターズS2着)。
松山 そうなんだよねぇ。しかも高松宮記念のときは、ものすごく泣いて…。検量室で涙が止まらなくなってさ。たぶん勝てると思ってたんだろうね。もう悔しくて悔しくて。
川須 GIを勝てると思えたのがすごいよね。
松山 勝ったことなかったけどね(苦笑)。レースとしては、その秋のスプリンターズSのほうが惜しかったんだけど、そのときは全然涙も出なかったし、むしろスッキリしてた。でも、高松宮記念のときは帰りの車のなかでもずっと泣いてたし、何よりあんなに人がいる検量室で、抑え切れないほど涙が込み上げてきたっていうのが自分でも衝撃だった。
恭介 ただひたすら悔しかったんだろうね。
松山 うん。こんな感情になるんやって、自分でもちょっとビックリした。2着という事実を受け入れられなかったんだろうね。
優作 そういう出来事を経て、皐月賞でGI初制覇!
▲アルアインで皐月賞勝利、自身の初GIをクラシックで飾った(撮影:下野雄規)
松山 皐月賞を勝てたことも自分にとっては衝撃だったけど、そのアルアインで挑んだダービー(5着)というのが、これまたすごかった。とにかくめちゃくちゃ緊張した!
恭介 そりゃそうだよ。2冠を狙えるただ1頭の馬だったわけだから。
松山 そうだよね。半端じゃない経験をさせてもらったと思う。でね、ダービーに騎乗したのはアルアインで4回目だったんだけど、それまでの3回ではそこまで感じることのできなかった“ダービーの重み”っていうのを、レースが終わってからものすごく感じたんだよね。
川須 終わってから?
松山 そう。終わってから、ダービーってすごいなってジワジワ感じてきて。「いつか絶対に勝ちたい!」と、改めて強く思ったんだよね。
(文中敬称略、次回へつづく)