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ばんえい記念

  • 2012年03月28日(水) 18時00分
 私事だが、ここ最近の年度末における恒例行事が、ばんえい記念のナマ観戦。初めて観たのは4年前だが、そのときのばん馬の頑張りようと観客の白熱ぶりに大感動。実際に泣いている観客は1人や2人ではなかったし、自分自身もうるっときた。ばんえい競馬を初めて観たのは20年近く前の北見競馬場だが、ばんえい記念は「こんな競馬が世の中にあったんだ!」というほど、心に深く刻まれる感動競馬だったのだ。

 というわけで、最近の私はばんえい記念に備えて万全の体調を整えるために、前日深夜のドバイはまるで無関心。今年は久々にばんえい記念とドバイがかぶらないけれど、個人的な年度末の大イベントは、やっぱりばんえい記念のほうなのだ。

レース当日の競馬場は雪で真っ白

レース当日の競馬場は雪で真っ白

 ということで、今年も前日の最終レース後に帯広競馬場内で行われる前夜祭から参加。100名ほどの熱心なファンが大一番に寄せる期待を感じつつ、翌日は1レースの前に競馬場に到着!

 というのも、1レースから場内の場立ち予想イベント、中継スタジオでのテレビ中継出演と、スケジュールがメインレース前までビッシリ入っているのだ。私のほかにそれを担当したのは、このサイトで連載をしている矢野吉彦さん、斎藤修さん、そして北海学園教授の古林英一さん、道営実況などでおなじみの小枝佳代さんの計5人。

 盛りだくさんの場内イベントは例年と同様だが、今年の帯広地方は雪が多すぎるから例年とはスタンド前の景色が全然違う。昨年は場内の端っこに集められて融け残った雪山が少しある程度だったのに、今年は走路以外が白一色。積雪量も10cmくらいあって、とても3月下旬とは思えないほどだ。

 そのおかげか、速い時計での決着が続出。第1レースはスタート地点の近くから馬と一緒にゴール方向に向かったが、ちゃんと走らないと追い付けないくらいのスピード決着だった。ちなみに勝ち時計は1分15秒7。200mでそのスピードだから、時速に直すとおよそ9.5km/h。でも人間のほうは雪中行軍だから、ソリを曳いているばん馬に負けそうなくらいの勢いだった。こりゃ、ばんえい記念も速い時計で決着しそうだなあ。

 そしていよいよ午後5時15分。陸上自衛隊第5音楽隊による見事な生ファンファーレとともに大観衆の鼓動が高まっていく。レースは単勝1番人気に推された一昨年の覇者、ニシキダイジンが力の違いを見せ付ける歩みで引退レースを見事に勝利。だが、ばんえい記念の見どころはここからなのだ。

鈴木騎手騎乗のニシキダイジンが勝利

鈴木騎手騎乗のニシキダイジンが勝利

 2番手を死守しようと懸命に歩くナリタボブサップの背後から、こちらも引退レースとなるフクイズミが近づいてくる。交錯する「ボブがんばれ!」「フクちゃんガンバレ!」の声。スタンドから発せられる声援は、JRAのG1レースとくらべてもまったく負けてはいない。こちらは4千人の観衆の大半が声を出して応援しているのだ。

 そしてニシキダイジンから遅れること1分半。最後にトモエパワーがゴール地点に到達すると、観客から大拍手。今年も涙を流しながらレースを見つめている人がたくさんいた。競馬で泣けることなんてなかなかないと思うのだが、ばんえい記念には勝ち負けや損得を超越した感動が存在するのだ。

 しかしながら競馬場の熱い雰囲気とは裏腹に、ばんえい記念だけの馬券売り上げは5千万円に届かない数字。こんなにすごい盛り上がり方で、ばんえい記念を制した鈴木恵介騎手、村上慎一調教師、そして馬主さんは感無量の表情なのに、この数字との温度差っていったい……。

ばんえい記念仕様の地元バス

ばんえい記念仕様の地元バス

 その理由はいろいろあるだろうが、間違いなく言えるのは「もっとたくさんの競馬ファンに、ばんえい記念をナマで観ていただきたい」ということ。ナマで観ていただければ、おそらく高確率でクセになる。それが証拠に、今年も本州から来たとおぼしきファンがたくさん来場していた。

 とにかくばんえい記念、そしてばんえい競馬はナマ観戦がいちばん。それを知れば、ばんえい競馬のネット発売や場外発売にも参加しやすくなることだろう。来年度のばんえい競馬は4月14日からスタート。とにかく「世界でただひとつの競馬」を未体験のかたは、ぜひぜひ現地に突撃していただきたい。絶対にオススメしますよ!

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グリーンチャンネル・中央競馬中継キャスターを経て、4月からは同じくグリーンチャンネルの新番組「競馬ワンダラー」の案内人を務める。そのほかにも生産牧場や育成牧場の取材、執筆、各地の競走馬セリ市の進行役も。3月には単行本「廃競馬場巡礼」を上梓。競馬のよき語り部としての研鑽を積んでいる。

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