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伏兵ゆえの強気の勝負がズバリ、アポロケンタッキー/東京大賞典・大井

  • 2016年12月30日(金) 18時00分

撮影:高橋 正和



内田博幸騎手の思い切った作戦が見事に的中


 予想どおり、ほかに行く馬がいないため、難なくコパノリッキーがハナに立ち、アウォーディーがピタリと2番手でマーク。アポロケンタッキーが続いて、サウンドトゥルーやノンコノユメが4、5番手というのも、ペースが遅ければ当然の展開。

 それにしてもペースが遅かった。コパノリッキーの戸崎圭太騎手はがっちり手綱を押さえ、ペースを落とせるだけ落としての1000m通過は64秒8。近年の大井2000mのGI/JpnIで、これほどの超スローペースは記憶がない。たとえば同じ大井2000mで、やはりスローだった今年の大井記念でも64秒3。地方重賞でも62秒前後が普通のペースで、64秒台というのはめずらしいほどのスローペース。

 ならばコパノリッキーにはおあつらえ向きの展開で、今年の帝王賞のように4コーナー手前あたりから後続を離しにかかるかと見ていたのだが、その気配はまったくない。それどころか、その勝負どころから戸崎騎手の手が動きはじめていた。

 コパノリッキーに手ごたえがなかったため、戸惑ったのはアウォーディーの武豊騎手ではなかっただろうか。一気に交わして先頭に立ってしまえば、馬がレースをやめてしまうおそれがある。

 そこで勝負に出たのが、アウォーディーの直後を追走していたアポロケンタッキーで、直線を向いて前の2頭を一気に交わしにかかった。その瞬間、アウォーディーにとっての敵はコパノリッキーからアポロケンタッキーに替り、武騎手は慌てたように追い出している。アクセルを一杯に踏み込んでも一気に加速できるわけもなく、アポロケンタッキーがそのまま1馬身半、突き放してのゴールとなった。

 アポロケンタッキーは準オープンからオープンを3連勝のあと、重賞初挑戦が10月のシリウスSでタイム差なしの3着。ブラジルCを惨敗したあと、みやこSが重賞初勝利。はじめて一線級との対戦となったチャンピオンズCが、勝ったサウンドトゥルーから0秒4差の5着。若い4歳ゆえ、強い相手と対戦したことでのパワーアップはあったのだろう。しかも今回は伏兵的な存在で、内田博幸騎手の思い切った作戦も見事に的中した。その内田騎手はアポロケンタッキーに初騎乗だったが、「大井を乗り慣れた人じゃないとだめだと思って内田さんに頼みました」という山内研二調教師の判断もズバリ的中した。

 チャンピオンズCに続いて2着惜敗のアウォーディーは、JBCクラシックを勝っているようにGI級の実力があることは間違いない。しかし勝負どころで自分でレースをつくれないという難しさがある。チャンピオンズCではゴール前で抜け出したところをサウンドトゥルーの強襲に遭い、今度はコパノリッキーが相手と思っていたところ、アポロケンタッキーの不意打ちに遭ってしまった。引退が発表されたアムールブリエ、それに弟のラニと、ヘヴンリーロマンス3兄弟は、能力は一流だがそれぞれに個性的というほかない。

 サウンドトゥルーにとってスローペースはやはり難しかった。自身も上り3F=36秒4と、持ち味は発揮しているのだが、前にいたアポロケンタッキーに36秒1という脚を使われてはどうにもならない。今年はこれで7戦して1勝、2着1回で、3着が4回目。安定してトップクラスの能力は発揮するものの、ペースや展開がハマらないと勝ち切るまでには至らない。

 ノンコノユメは、サウンドトゥルーと同じような位置を追走しながら、3コーナー過ぎで手ごたえ一杯、前の4頭からは離されてしまった。結局、バテたコパノリッキーには先着して4着だったが、サウンドトゥルーからは4馬身差。去勢後、どうにも本来の力が戻らない。

 コパノリッキーは直線失速して5着。パドックから元気がないようにも見えたし、そもそも前半62秒くらいのペースでも抑えきれないほど行きたがるのがこの馬の本来の姿。実力を発揮していないし、発揮できる状態にもなかったのかもしれない。

 ちなみに前半1000mのペースは地方重賞でもスローの部類と書いたが、さすがにこのメンバーでスローに流れれば後半は一気に速くなり、後半1000mは61秒0。レースの上り3Fは36秒3で、その急激なペースアップには地方馬は対応できない。中央7頭が上位を独占し、地方馬でもグレード実績のあるハッピースプリントがようやく8着。そのうしろは大差がついた。

 勝ちタイムの2分5秒8は、過去10年の東京大賞典で4番目に遅いタイム。しかし、前半スローに流れたこと、重馬場のわりにこの日は全体的に時計がかかっていたことなどを考えれば、決してレベルの低い争いではなかった。

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1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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