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平均ペースで強さを発揮したコパノリッキー/かしわ記念・船橋

  • 2016年05月06日(金) 18時00分

(撮影:高橋正和)



一昨年とレースの質としてはほとんど同じ

 上位入着馬にリピーターが多いと言われるかしわ記念だが、一昨年の覇者コパノリッキーは、昨年は骨折休養のため出走せず、そして今年2度目の制覇となった。レース後、過去の成績を見ていてちょっと驚いた、コパノリッキーのかしわ記念の勝ちタイムは、一昨年も今年もまったく同じ1分39秒2。ともに良馬場だ。ハロンごとのタイムを並べてみると……

 2014年:12.8 - 12.2 - 12.9 - 12.5 - 12.2 - 11.9 - 12.3 - 12.4
 2016年:12.7 - 11.9 - 12.6 - 12.3 - 12.4 - 12.1 - 12.5 - 12.7

 一昨年は6F目に、今年は2F目に11秒9があるだけで、それ以外はすべて12秒台。見事に平均ペースを好位で追走して押し切っている。レースの質としてはほとんど同じと言ってよい。

 今回、懸案のスタートは、出遅れたというほどではないものの、“よいしょ”という感じで伸び上がり、ダッシュはあまりつかなかった。ハナを取ったのはソルテ。それでもコパノリッキーは2番手を確保し、外から並びかけてきたベストウォーリアに主張されたら包まれて危ないところだったが、ベストウォーリアも無理して行くことはなく、うまくソルテの外の2番手につけた。1番枠からのスタートを考えれば、コパノリッキーにとっては絶好位といっていいだろう。これで勝つための条件をひとつ手にした。

 もうひとつの勝った要因は、前記したラップタイムのとおり、平均ペースでレースが流れたこと。モーニンが好位で突いてくればもう少し厳しいペースになったかもしれないが、モーニンの行きっぷりがなんとも悪く、2コーナーを回ったあたりからデムーロ騎手の手は動きっぱなしだった。そのモーニンについてはまたあとで触れる。

 かしわ記念がJpnIとして行われるようになった2005年以降で、勝ちタイムが1分39秒台だったのは、コパノリッキーが勝った2度だけ。思えばコパノリッキーは、フェブラリーSを連覇した勝ちタイムがともに1分36秒台と遅かったことも、かねてから指摘されていた。

 実はこの開催、船橋競馬場はかなり時計がかかっていた。前日に行われた東京湾Cも、湿った重馬場にもかかわらず、1700mで行われるようになった2007年以降でもっとも遅いタイムの決着で、かしわ記念当日の条件戦でも時計がかかっている印象だった。その時計がかかる馬場もコパノリッキーには味方したと思われる。

 1分39秒台という決着は、逃げて2着に粘ったソルテにも味方した。ソルテは同じ船橋1600mの重賞、京成盃グランドマイラーズを昨年勝っていて、その勝ちタイムは1分39秒5。そして今回のソルテの走破タイムは1分39秒9。京成盃グランドマイラーズのときはタイムの出やすい重馬場だったこともあるが、1000m通過は60秒ちょうどで、実は今回(61秒9)よりも1秒以上速いラップを刻んでいた。つまりソルテにとって、今回は中央のGI/JpnI勝ち馬5頭が相手とはいえ意外に楽なペースだった。

 ソルテは今回、中央5頭からは離れた6番人気。JpnIになってからのかしわ記念は1分35秒台や36秒台の決着もあり、そこにフェブラリーSで1分34秒0というレコード勝ちのモーニンが出てくるのだから、いくら重賞で連勝しているソルテといえども、3歳時(ジャパンダートダービー・6着)以来のダートグレード挑戦では通用しないだろうという評価を受けるのも当然のこと。それが今回、コパノリッキーやソルテに向いたペースに落ち着いたのは、1番人気に支持されたそのモーニンが凡走したためとも考えることができる。

 ただ、コパノリッキーのかしわ記念、フェブラリーSの勝ちタイムが遅かったからといって、コパノリッキーが強くないとか、レースのレベルが低いということではない。展開に恵まれたという見方もできそうだが、そもそも展開に恵まれて勝つような馬がGI/JpnIを6勝もできるわけがない。

 コパノリッキーの強さがどこにあるかといえば、平均ペースで逃げて、または先行して、直線で後続を突き放すところにある。盛岡、そして大井で連覇を果たしたJBCクラシックもそういうレースだった。単にスローペースに恵まれて逃げ粘っただけなら、末脚勝負の馬が脚を余しているはず。しかし今回、4着ノンコノユメの上りは37秒5、5着サウンドトゥルーは37秒8。2番手を追走したコパノリッキーは、その2頭を上回る37秒2というメンバー中最速の上りを記録した。

 そして初めての惨敗となる8着だったモーニンだが、馬体重が-12kgの510kgはデビュー以来の最低馬体重。そもそも体調に問題があったのかもしれないし、道中追い通しだったところを見ると、馬場が合わなかったのかもしれない。

 ダートのGI/JpnIをいくつも勝つ最強クラスの馬でも、中央のダートで力を発揮するタイプと、地方のダートで力を発揮するタイプに別れるように思う(もちろん両方OKというタイプもいる)。現役馬でいえば、GI/JpnI・10勝の新記録を達成したホッコータルマエは、そのうち9勝が地方でのもので、明らかに地方向きのタイプ。平均ペースで力を発揮するコパノリッキー、末脚を長く持続するサウンドトゥルーも地方向きのタイプ。一方で、スピード勝負のモーニン、長い直線で最後の一瞬だけ切れるノンコノユメは中央で力を発揮するタイプ。ノンコノユメのGI/JpnI勝ちは大井でのものだが、直線が長い上に水が浮くほどの不良馬場という特殊な条件だった。

 船橋コースの経験・実績や、地方のダートコースが合う/合わないが、最強クラスのメンバーが揃った今回のかしわ記念の結果に少なからず影響したのではないだろうか。

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1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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